産業用ロボットSIer 300社掲載

2021.02.28

スカラロボットとは?特徴やできること、活用事例を解説!

産業ロボットの中でも比較的低コスト・コンパクト・シンプルな操作感で、様々な現場に導入可能なスカラロボット。この記事ではスカラロボットの特徴やできること、活用事例を解説します。

便利な特殊機能やスカラロボットを取り扱っているメーカーも紹介しているので、ぜひ検討材料にしてみてください。

この記事の結論

・スカラロボットとは水平方向への高速移動と上下方向の剛性に優れた産業用ロボットのこと
・スカラロボットは低コスト・シンプルな構造・省スペースといった特徴を持つ
・スカラロボットの代表的な用途は組み立て、搬送、ネジ締め、塗布の4つ

スカラロボットの構造

スカラロボット(水平多関節ロボット)とは、水平方向にアームが動く多関節のロボットです。スカラロボットの「スカラ」は、英語名(Selective Compliance Assembly Robot Arm)の頭文字から来ています。

可動範囲に制限はありますが、上下方向の剛性に優れているのが特徴です。

引用元:https://youtu.be/0EGoOUnmcp4

一般的にスカラロボットのマニピュレーター(本体部分)は平面3自由度の位置決めと先端部の上下運動による4軸で成り立っており、主に次の2つの部分から構成されています。

  • 水平に動く部分
  • 垂直に動く部分(先端部分)

一つずつ見ていきましょう。

水平に動く部分

スカラロボットはその場の通り水平方向への移動を得意とします。ロボットの胴体部分が水平方向に高速移動をすることでワーク(取り扱う製品・目標物)に狙いを定めます。

垂直に動く部分(先端部分)

スカラロボットの先端部分は垂直に動くようになっています。そのため組立や基盤への部品配置といった「押し込み動作」を再現できます。

また先端部に様々な機能を持つユニットを付加することにより、様々な用途に対応可能です。

たとえば用途に合わせて次のようなユニットを取り付けることができます。

  • ①吸着パッド or チャックハンド(用途:ピック&プレース)
  • ②電動ドライバ(用途:ネジ締め)
  • ③製品に合わせた形状の治具(用途:圧入)
  • ④ディスペンサ(用途:材料塗布)

スカラロボットの動き方(ワークとの位置関係)

スカラロボットを適切に活用するためには、ロボットの作業域とワークとの位置関係が重要です。

スカラロボットが動作を開始するためには、あらかじめワークをセットする位置を整列・調整しておく必要があります。

スカラロボットの作業域に対してワークの位置を整列・調整する方法には「ワーク自体を利用した位置決め方法」と「カメラを利用した位置補正方法」の2種類があります。

ワーク自体を利用した位置決め方法

スカラロボットの作業域に対してワークの位置を調整することで位置決めをすることが可能です。

たとえばワーク自体に設けた加工基準穴とスカラロボット側に設けたピンを合わせることで位置決めをする方法があります。

あるいは取り扱う製品の形状がシンプルな場合には、ワークを壁などの平面に押し付けるなどして位置を整えるというシンプルな方法で事足りる場合もあります。

比較的コストのかからない位置決め方法ですが、ワークの性質や形状について熟知した上で導入を進めることが重要です。

カメラを利用した位置補正方法

固定カメラもしくはスカラロボットの先端に取り付けたカメラを用いてワークの位置補正をすることも可能です。カメラの視野角に入る程度で大体の位置に設置されたワークを、画像処理システムなどで細かく調整していきます。

カメラを利用した位置補正方法はカメラを利用する分コストがかかりますが、壊れやすい製品などワーク自体を利用した位置決めが難しい場合には有効な方法です。

スカラロボットの特徴

ここではスカラロボットの4つの特徴について解説します。

  • 水平方向の高速移動が可能
  • 構造がシンプル
  • 設置面積が少ない
  • 自由度の高い動きは苦手

一つずつ見ていきましょう。

水平方向の高速移動が可能

先述のように、スカラロボットは水平移動に特化したロボットです。

たとえば工業製品などの部品配置工程において必要な部品の搬送および押し込み動作を高精度かつ高速で実現できるのが強みです。

構造がシンプル

スカラロボットは3つの回転動作と1つの上下動作を基本としたシンプルな構造をしています。そのため比較的低コストで導入が可能で、制御・操作やメンテナンスがしやすいといったメリットがあります。

設置面積が少ない

スカラロボットはコンパクトな形状をしているため、工場内の設置面積が少なく省スペースを実現できます。そのため限られたスペースしかない製造現場でも導入を検討しやすい点がメリットです。

自由度の高い動きは苦手

同じアーム型のロボットでも垂直多関節ロボットなどは人間の腕に近い動きを再現できますが、スカラロボットは3次元的な動作はできません。

ただし、水平方向の高速移動と垂直方向の剛性に大変優れているので、一定方向への直進的な動作を自動化する際には高い効果を発揮します。

関連リンク:水平多関節ロボットの導入と活用方法!導入事例とおすすめSler3選!

一部のスカラロボットが実装している便利な機能

ここでは、特殊機能を持つスカラロボットを3種類紹介します。

  • 協調ロボ
  • インバースタイプ
  • 安全カバー

協調ロボ

協調ロボとは、一つのワークに対し複数のスカラロボットを同時に動かす機能です。

協調ロボ機能があることでスカラロボット同士が衝突することなく、生産ライン内でロボット同士が協働作業をすることが可能になります。

たとえばワークのサイズや重量が大きく複数のロボットアームが必要な場合な現場などで活用されています。

インバースタイプ

一般的なスカラロボットはワークに対して上方向からアクセスする作りとなっていますが、インバースタイプのスカラロボットはワークに対して下からアクセスすることができます。

複雑な形状の製品の組み立て時など、インバースタイプのスカラロボットは使い方次第で生産ラインの効率化・省スペース化につなげることができます。

安全カバー

安全カバーとは人間とロボットが接触するとロボットが自動停止する機能です。ロボットを覆うカバーの表面が静電容量センサーの検出部となっており、静電容量の変化を感知することで接触の有無を検出しています。

国の労働安全衛生規則によると定格出力が80Wを超える産業用ロボットを稼働する場合には原則として作業員とロボットの間に大規模な安全柵などを設置しなければならないと定められています。

ただし安全カバーなどの対策を講じることで安全性が認定された場合は安全柵の設置が免除される場合があります。

そのため安全カバーはスカラロボットと人が協働作業をする現場などでの安全策として有効です。

スカラロボットの用途・導入事例

ここではスカラロボットの主な4つの用途について解説した上で、様々な産業分野における導入事例を紹介します。

用途

スカラロボットが向いている作業は、

  • 組み立て
  • 搬送
  • ネジ締め
  • 塗布

の4つです。詳しく見ていきましょう。

組み立て

スカラロボットが開発された当初の用途は組み立て作業の自動化でした。そのため現在でも組み立て工程ではスカラロボットが数多く活用されています。

スカラロボットは作業者1人分ほどのスペースがあれば十分に設置でき、人間よりも高速かつ正確な組み立てを行うことが可能。

そのため面積あたりの生産力で比較すると、スカラロボットによる生産ラインは人間だけの生産ラインの数倍の生産力があると言われています。

搬送

スカラロボットはコンベアからコンベアへの製品搬送や、製品を容器などへ整列する用途にも活用されています。搬送作業では水平方向に高速で移動することができるというスカラロボットの特徴が大いに活かされるので、生産効率が大幅に向上します。

ネジ締め

スカラロボットの先端に電動ドライバのユニットを付加することでネジ締め工程を高速自動化することができます。

スカラロボットにネジ締め箇所をプログラミングしておくことで、複数箇所のネジ締めが必要な製品でも自動かつ高速にネジ締めをおこなうことができます。

また複数のスカラロボットを組み合わせることで搬送とねじ締めを高速一元化することも可能です。

塗布

スカラロボットの先端にディスペンサ(吐出機)のユニットを付加することで、ゲル状の材料などを塗布する工程を自動化できます。

たとえばメカトロニクス分野では接着剤注入、食品分野では冷凍食品のたこ焼き製造などにおいてもスカラロボットの塗布技術が活躍しています。

関連リンク:スカラロボットの価格は?メーカーごとの製品を紹介!

導入事例

ここでは、様々な産業分野におけるスカラロボットの導入事例を3つ紹介します。

油圧機器の外観検査システム

油圧機械装置に使われる油圧パイロット弁という部品の製造ラインにおいて、双腕型のスカラロボットで画像センサと照明を操作し、取得した画像をAIで判別することにより、外観検査を自動化させました。

その結果、約32%のコスト削減に成功しました。

事例の引用元:『ロボット導入実証事業 事例紹介ハンドブック2018』p.56

焼鳥製品の串刺し機への原料投入システム

従来人間が手作業でおこなっていた焼鳥の加工工程の串刺し作業を、2台のスカラロボットと画像処理技術を組み合わせることにより自動化させました。

その結果、これまで3名でおこなっていた作業を無人化し1名を品質チェックに配置することができるようになり生産性が向上しました。

事例の引用元:『ロボット導入実証事業 事例紹介ハンドブック2018』p.6

冷凍粒牡蠣の分散・移載システム

冷凍粒牡蠣の向きを揃えて1個づつベルトコンベアに載せる工程にスカラロボットを導入しました。

振動フィーダー、2次元カメラ、吸着ハンドといったユニットも活用することで作業を自動化させた結果、労働生産性は3倍に上昇し、2名分の省人化効果がありました。

事例の引用元:『ロボット導入実証事業 事例紹介ハンドブック2018』p.99

スカラロボットを取り扱っているメーカー

スカラロボットを取り扱っている主なメーカー(全8社;2021年現在)を表に示します。

スカラロボットの主要メーカー8社(五十音順)

メーカー名本社公式ウェブサイト
株式会社デンソーウェーブ愛知県https://www.denso-wave.com/
株式会社アイエイアイ静岡県http://www.iai-robot.co.jp/
芝浦機械株式会社静岡県https://www.shibaura-machine.co.jp/jp/
蛇の目ミシン工業株式会社東京都https://www.janome.co.jp/
セイコーエプソン株式会社長野県https://www.epson.jp/
三菱電機株式会社東京都https://www.mitsubishielectric.co.jp/
安長電機株式会社長野県https://www.yasnaga.co.jp/
ヤマハ発動機株式会社静岡県https://www.yamaha-motor.co.jp/

関連リンク:スカラロボットのメーカー14社を特徴と合わせて紹介!

実際の現場にロボットシステムを導入する場合は、ロボットの付帯設備の設計・製作・設置が必要です。付帯設備には以下のようなものがあります。

  • 安全柵
  • 制御盤
  • 架台
  • エンドエフェクター(ロボットハンド)
  • 搬送装置

こういった付帯設備を含むシステムの設計・制作・設置はロボットシステムインテグレーター(ロボットSIer)に依頼するのが一般的であり、その費用が別途発生します。その他にもロボットティーチングやメンテナンスといった時間的・金銭的コストも想定しておく必要があります。

まとめ

本記事ではスカラロボットの特徴やできること、活用事例までを幅広く解説しました。

低コストでコンパクト、シンプルな構造をしている点が魅力のスカラロボットは各種産業における組み立て、搬送、ネジ締め、塗布といった様々な作業工程で活躍しています。

自社にもスカラロボットを導入してみたいと思われた方は、この記事で紹介したスカラロボットの用途や特殊機能、おすすめメーカーなどをぜひ参考にしてみてください。

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