目次
本記事では「ロボティクス」について、ロボット業界で10年以上働いている筆者がわかりやすく解説します。本記事で解説する内容は、次の3つです。
・ロボティクスとは
・ロボティクスと関連用語の違い
・ロボティクスの今後について
この記事を読むと、「ロボティクスがどういう技術なのか」「ロボティクスとロボット、オートメーションの違い」「ロボティクスの進化によって、今後ロボットがどんな未来をもたらすのか」がわかるようになります。
ロボティクスについて知りたい方は、ぜひ最後まで読んでみてください。
ロボティクスとは
「ロボティクス」とは、ロボットを作り利用するための科学技術のことで、「ロボット工学」とも呼ばれています。
ロボットはさまざまな分野の科学技術を応用して動いています。たとえば、ボディを構成するためには機械工学・電気工学が、ロボットをたくみに制御するためには制御工学・情報工学がつかわれています。ロボティクスはこれらの分野を応用して、ロボットをどう設計するか、どう動かすか、どのように利用するかに特化した分野といえます。
ロボティクスはどのように使われているか
ここでは、ロボティクスがどのように使われているか、具体例を紹介します。
飲食配送ロボットに使われるロボティクス
レストランでお客さんに料理をお届けする飲食配送ロボットは、現在地から目的地であるお客さんのテーブルの場所に向かって移動します。目的地までどんな経路で移動するかをロボット自身で考えるのですが、この目的地までの経路を考える方法(アルゴリズム)とそれをロボットにプログラムする方法はロボティクスといえます。
ヒューマノイドロボットに使われるロボティクス
人間と同じように手足を持ち、二足歩行するヒューマノイドロボット。倒れないようにバランスをとりながら歩くために、ヒューマノイドロボットは自身の重心の位置を常に計算し、手足をたくみに制御しています。この二足歩行に必要な制御はロボティクスといえます。
バラ積みピッキングロボットに使われるロボティクス
かごの中にバラ積みされた部品をピッキングし、ベルトコンベヤなどに並べる作業はバラ積みピッキングと呼ばれています。バラ積みピッキングで使われるロボティクスは、「物体認識」と「マニピュレーション」に分類できます。
まず「物体認識」は、ロボットにとっての目であるビジョンセンサで物体を認識する作業です。ビジョンセンサでバラ積みされた部品を認識し、部品の形状、部品の位置・姿勢が計算されます。
つぎに「マニピュレーション」は、認識された部品に向かってロボットの手をのばし、つかむまでの作業です。この作業をおこなうために、ロボットは現在の位置から部品をつかむためのアームの位置を計算し、そのためにどれだけモーターを回転する必要があるかを計算します。
スーパーで商品棚の果物をつかんで買い物かごに入れる、といった作業は、人間にとっては造作もないことです。しかし、このような簡単に見える作業でも、ロボットはその動作を実現するために多くの法則を使い、多くの計算をこなしています。この動作を実現しているのがロボティクスなのです。
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今後のロボティクス
今後のロボティクスの方向性として、次のような動向が予想されています。
IoT、AI技術の統合
ロボティクスにIoT(Internet of Things)、AI(Artificial Intelligence)技術を統合することで、ロボットの自律性が向上し、より高度で正確な作業ができることが予想されています。ロボットにセンサーを取り付け、IoTによって得られたデータをクラウドに収集し、そのデータをAIで分析することで、ロボットが自己学習していく環境を作ることができます。
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協働ロボットの普及
協働ロボットは、人と共同作業ができる比較的新しいタイプの産業用ロボットです。協働ロボットは小さいスペースでロボットが設置できるなどのメリットがあり、近年急速に市場が拡大しています。今後は協働ロボットがより使いやすくなる技術が発展し、普及の助けになると考えられます。
協働ロボットの特徴や活用事例については、下記の関連記事をご参照ください。
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ロボティクスと関連用語の違い
ここでは、ロボティクスと関連用語の違いについて解説します。
ロボットとロボティクスの違い
ロボットは人間の作業を自動で行うために作られた機械で、ロボティクスはそのロボットを作り、利用するための技術です。
オートメーションとロボティクスの違い
オートメーションは機械(ロボットや専用機)やソフトウェア(繰り返し計算などのプログラム)が人間に代わって作業を行うことで、ロボティクスは人間の代わりに作業するロボットを作り利用するための技術です。
RPA(Robotic Process Automation)とロボティクスの違い
RPA(Robotic Process Automation)はパソコンのマウスやキーボードの作業を自動化する技術ですが、ロボティクスはパソコンの操作に限らず人間の作業全般を自動化するロボットを作り利用するための技術です。
ロボティクスの進化がもたらす未来を予想
技術の発展とロボット市場の拡大にともない、ロボティクスであつかう内容も広がり、かつ進化しています。ここでは、ロボティクスの進化によってロボットで何ができるようになり、世界がどう変わるかを筆者なりに考察します。
IoTによるデータ収集とAIでロボットの稼働データを分析し、止まらない工場が実現する
ここは、電子部品を作る世界最先端の工場。中に人はおらず、ロボットがもくもくと部品の組み立て、検査、箱詰めをしています。
ロボットには稼働データを収集するセンサーが取り付けられ、IoT(Internet of Things)によってそのデータはネットワークを経由し、サーバーに収集されます。ロボットの稼働データはAIで分析され、わずかな稼働データの異常からロボット部品の寿命が近いことがわかります。定期メンテナンス時のわずかな時間に、ロボットは新しいものに交換され、急な故障によって生産ラインが停止することなく、工場は昼も夜も動き続けています。
飲食業界、物流業界、医薬品業界でのロボット化が進み、労働人口減少をおぎなう
労働人口減少による人手不足は、中長期的な社会トレンドです。三菱UFJリサーチ&コンサルティングの経済レポートによると、「15~54歳の2030年の労働力人口は、人口減少を背景に2017年から237万人減少する」と言われています。
参考文献:三菱UFJリサーチ&コンサルティング(2030 年までの労働力人口・労働投入量の予測)
近年のロボティクスの進化によりロボットのできることが増えており、ロボットの活用は労働力不足のトレンドにマッチしていると言えます。現在、ロボットは製造業を中心に活躍していますが、将来的には製造業以外の業界(飲食業界、物流業界、医薬品業界など)でのロボットの活用が期待されています。
ITの発達により人が遠隔で操作するロボットが普及する
1990年代から2023年現在にかけてIT(Information Technology)の発達はめざましく、とくにインターネットの普及が私たちの生活を大きく変えています。次世代のネットワーク通信として注目され、今後の普及が期待されている5Gは、超高速・超低遅延の通信をコンセプトとしており、その遅延は1ms程度とされています。
参考文献:総務省(5Gの利用シナリオと主な要求条件)
通信による遅延が1ms程度であれば、ロボットを遠隔操作したときに通信による遅延の影響がほとんどなくなります。5Gの普及により、遠隔操作ロボットの実用化が期待されています。
遠隔操作ロボットの事例として、医療ロボットへの応用があります。Intuitive Surgical社のda Vinchは、内視鏡外科手術を行うロボットで、全世界ですでに1,000万件以上の処置を行っています。このような医療ロボットが遠隔操作できると、優秀な医師が国境を越えて手術ができるようになります。
参考文献:インテュイティブサージカル合同会社(ダ・ヴィンチのロボット支援手術)
まとめ
この記事では「ロボティクスとは、ロボティクスと関連用語の違い、ロボティクスの進化がもたらす未来のロボットの活用事例」について解説しました。
労働人口減少は中長期的にほぼ確定している社会トレンドと言えます。その中で経済が成長するためには、一人あたりの生産性を伸ばす必要があります。
ロボットの活用は、一人あたりの生産性を伸ばす有効な手段のひとつと言えます。繰り返し作業や正確性が必要な作業はロボットに任せる。人間は柔軟性が必要な業務や、創造性が必要とされるクリエイティブワークなど、人間しかできない高度な仕事に集中する。人間とロボットそれぞれの得意を活かした分業こそが、ロボットを使う大きな意義と言えます。
ロボット市場の拡大や新しい技術の適用にともなうロボット自体の発展にともない、ロボティクスの重要性は今後も高まっています。