産業用ロボットSIer 300社掲載

2021.05.31

産業用ロボットのマニピュレーターとは?機能や選び方を解説

産業用ロボットは、ロボットアームのほか、ロボットハンド、架台、安全柵、ベルトコンベア、ストッカーなどの様々な周辺機器で構成されています。

なかでも、ロボットアームと呼ばれるマニピュレーター部分は作業の精度や速度に大きく影響します。本記事では、産業用ロボットのマニピュレーターに関する仕組みや種類、そしてマニピュレーターを選ぶ際のポイントについて解説します。

この記事の結論

・マニピュレーターと呼ばれるアーム部分はロボット稼働の要
・マニピュレーター搭載ロボットの種類は「垂直多関節ロボット」「スカラロボット」「パラレルリンクロボット」「直交ロボット」
・マニピュレーターの選定ポイントは「自由度」「可搬重量」「駆動方式」「速度」「精度」

ロボットのマニピュレーターとは?

産業用ロボットの性能や稼働を左右するのがマニピュレーターといわれるアーム部分です。マニピュレーターとは、Manipulate(操作する)の派生語で、産業用ロボットの動きの象徴的な腕の動きをあらわしています。

ロボットマニピュレーターは、動かす装置そのものを指す場合や、大きくて複雑なロボットの一部を指す場合があります。回転や動力を伝達する接続部はジョイントで繋がれており、この部分を「軸」といいます。

さらにロボットアームの先端に取り付けられるものはロボットハンドと呼ばれ、人間の手のような働きをし、掴む・回すなどのハンドリング作業を行います。

ロボットのマニピュレーターの構造

人間の腕に代わって働くロボットアームの動きは、マニピュレーターの軸の数(軸数)と軸の動きによって決まります。

マニピュレーターは動いて作業する腕に相当するもので、一般的に4つから7つの可動部となる回転軸があり、それぞれサーボモータと減速機がつながれています。

最もポピュラーなのが6つの可動部ある6自由度のマニピュレーターです。三次元空間上の位置と姿勢をかけあわせて動作することができます。

マニピュレーターを搭載したロボットの種類

マニュピレーターが搭載された代表的なロボットを紹介します。

垂直多関節ロボット

マニピュレーターが6軸の垂直多関節のロボットです。

ロボットハンドやリンクはサーボモータで回転する軸で直列に繋がっています。このようなマニピュレーターの構造から、垂直多関節ロボットは「シリアルリンクロボット」ともいわれます。

汎用性が高く、自動化を検討するときに様々な用途で使えるロボットです。同じ6軸構造でも、対象物を持ち上げられる最大の重さはメーカーによってさまざまです。

たとえば、可搬質量が500グラムのモデルの場合、本体質量が7キログラムであり、おおよそ片手で運べる重さになります。数台を組み合わせることで、それぞれが連携して細かい作業を精密に実行することができます。

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スカラロボット

スカラロボットはマニピュレーター軸とリンクはすべて水平方向に動作するものです。

一般的に、スカラロボットの軸数は4軸であり、アームが水平方向に旋回する動作と、先端部分が垂直方向に上下する動作を組み合わせた動きをします。このアームの構造から、スカラロボットは「水平多関節ロボット」とも呼ばれます。

先端部は上下方向に動きながら、対象物に対して作業をします。上下方向の剛性が高く、水平方向にはしなやかな動きが可能です。

構造がシンプルなため高速動作が可能で、先端部分が上下に動作する特徴を生かして、プリント基板への電子部品の実装などが得意といわれています。

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パラレルリンクロボット

パラレルリンクロボットは、リンクと軸で構成するアームを並列に複数配置したマニピュレーター構造になっています。

リンクと軸を組み合わせることで、多様な動作が可能です。また、並列なリンクを介して複数のサーボモータの出力を1点に集中することができます。

本体から伸びた3本のアームが先端で一体になった構造をしており、ロボットハンドはその一体になった部分に取り付けられます。アーム自体が非常に軽量であるため、高速に動かすことができますが、可動範囲は狭い特徴があります。各モーターが同期して先端を動作させるため、可搬質量に対して非常に高速な作業が可能です。食品工場などの細かい製品を扱う現場で多く使用されており、生産ラインで流れてくる製品の整列、充填、締め、包装、箱詰めなどを行うのに役立っています。

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直交ロボット

直交ロボットは、直角に組み合わせた直線のマニピュレーター軸で構成されたロボットです。

一般的には直動する案内機器とボール型のネジなどからなる1軸動作のユニットを組み合わせて構築します。1軸(単軸)~4軸などと、工場現場の用途に応じて軸数を増やせます。

複雑な動作はできませんが、シンプルで安価なロボットといえます。設備をより小さく高密度で配置ができるため、工場のラインレイアウトの自由度が高まります。

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ロボットのマニピュレーターの選定ポイント

マニピュレーターロボットの中枢機能を踏まえたうえで、選定するポイントを紹介します。

選定ポイント:自由度(可動範囲)とは

軸数は、人間の関節に相当します。
軸数に比例して、自由度が高まり可動範囲も増加します。
このことから、軸数が多いほど3次元空間の作業に適したロボットになります。

そのため、生産現場では自由度の高い垂直多関節ロボットが主流になっています。
一方で、直交ロボットは軸数が2〜4が標準的であり、自由度が低いため、基本的に単純な動作が想定されています。しかしながら、動作速度が速いことや、精度が高いというメリットがあるため、垂直多関節ロボットを補佐する作業には適しているといえます。

選定ポイント:可搬重量(ペイロード)とは

ロボットアームが持ち上げることが出来る最大重量は、メーカーによって設定された可搬重量(ペイロード)により異なります。そのため、運搬対象物の重量を考慮しながら、適切なロボットアームを選択する必要があります。可搬重量は、ロボットアームの軸数やリンクの接続方式に関連していることを覚えておきましょう。

たとえば、水平多関節ロボットや垂直多関節ロボットの構造では、モーターの先にモーターが繋がっていることから、根元の軸に近い部分に大型のモーターが必要となります。
このような構造であることから、ロボット本体のサイズや重量に対して、可搬重量は小さくなるという傾向があります。

一方、パラレルリンクロボットの構造は、複数のモーターが根元にあることから、ロボットの先端部分のみを動かします。そのため、ロボット本体のサイズや重量に対して、可搬重量が大きく高速で動作することが可能です。

選定ポイント:駆動方式とは

ロボットアームには、電動、油圧、空圧、手動などの駆動方式があります。駆動方式が異なることで、マニピュレーターの精度や速度、強度なども異なります。

最も使用されている駆動方式は電動です。電気による駆動の特徴として、制御が容易で高速な動作に向いていることから、装置を小さくできるというメリットがあります。
油圧や空圧の駆動方式は、大きな力を発生させることができ、外部からの衝撃に強いことから、重量物の取り扱いに向いています。

手動の駆動方式は、小規模な操作、または緊急時に使用されることが多くなります。

空気圧の駆動方式は、電気駆動に比べて高精度な位置決めなどの精度は劣りますが、空気の圧縮性を利用した柔らかな力の制御が可能です。また、油圧ほどではありませんが大きな力を発生させることができる点もメリットです。

駆動方式は、コストだけでなく、エネルギー効率やメンテナンス性といった多くの要因から選択する必要があります。ロボットアームの性能を最大限に引き出すためには、適切な駆動方式の選択が非常に重要です。

選定ポイント:速度とは

ロボットアームの作業速度は、速い方がタイムラグなく作業できます。
ただし、ロボットの速度は生産ラインの速度に合わせて選定することが大切です。ロボットの動作が遅いことの問題はわかりやすいですが、必要以上に速い場合も前後の工程でのタイムロスの増加や、無駄な在庫の発生する場合があります。
適切に速度に設定しないと処理量の増加効果が相殺されてしまいます。

これらのロボットには、動作速度に制限があります。ロボットハンドが対象物に触れる点の中心であるTCP(ツール・センター・ポイント)速度は、最大でも250mm/s以下とされています。

ロボットを高速で作業させる場合には、安全柵で囲んで、誤って人が立ち入らないように対策する必要があります。安全柵を設置することで、ロボットを高速で動作させても人への安全性を確保することができます。
作業効率を上昇させることができるので、安全柵の設置も重要です。

選定ポイント:精度とは

マニピュレーターの精度を判断する指標として「繰り返し位置決め精度」と「絶対位置決め精度」があります。産業用ロボットを用いた生産では、動作を繰り返すので精度が重要です。
基本的にはロボットの関節数に比例して精度は低下する傾向がありますが、関節数を増やしたとしても、精度を向上させることもできます。
ただし、関節数と精度の両立には、剛性やサーボモータの品質の向上が必要なため、高い精度を備えた多関節ロボットは高価になる傾向があります。
つまり、関節数の増加を伴いながらも、高い精度を必要とする場合は、コストとのトレードオフであることを考慮する必要があります。

精度と価格の相反する条件の解消策としては、「センサーフィードバック」という技術が注目されています。
センサーフィードバックの技術では、まず、ロボットハンドの先端に画像センサーを取り付けます。
取り付けた画像センサーからの位置情報を読み取り、ロボットアームやロボットハンドの制御を行います。これにより、ロボットアームやロボットハンドの制御精度が高まり、品質向上や生産性向上が期待できます。
さらに、センサーフィードバックは、高性能ロボットへの買い替えと比較すると、低コストで精度不足を補えるといったメリットもあります。使用中のロボットシステムにも導入できるので、効率的な改善が可能となります。

マニピュレーターについて

近年加速するロボット技術には目を見張るものがあります。とりわけ、工場現場で人間のように滑らかな作業を行うためには、マニピュレーターの技術が重要になります。
自社で導入した産業用ロボットが故障した際に、一体丸ごと新しいロボットに交換するのは現実的ではありません。ロボットの動きの中枢を担うマニピュレーター部分だけの交換で済むケースも多いです。

機械工学の分野なので専門的な知識も必要となりますが、マニピュレーターに対する最低限の知識を持っておくと良いでしょう。

まとめ

近年加速するロボット技術は目を見張るものがあります。とりわけ、工場現場で人間のように滑らかな作業を行うためには、マニュピレーターの技術が重要になります。

自社で導入した産業用ロボットが故障した際に、一体丸ごと新しいロボットに交換するのは現実的ではありません。ロボットの動きの中枢を担うマニュピレーター部分だけの交換で済むケースも多いです。

機械工学の分野なので専門的な知識も必要となりますが、マニュピレーターに対する最低限の知識を持っておくと良いでしょう。

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