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ロボット市場は、2035年には10兆円規模にまでなると予想される成長産業で、労働人口減少で人手不足に悩む企業が少なくない中、工場へのロボット導入を検討されている経営者や担当責任者は多いのではないでしょうか。
そこでこの記事では、実際に工場で使われているロボットの種別とその活用法、メリットや注意点など、産業用ロボットの基本編をご紹介していきます。
工場にはなぜロボットが必要なのか
工場で使われるロボットは産業用ロボットと呼ばれ、自動車や電子機械、金属・機械関連を中心に、あらゆる分野で使われています。
ロボットを導入することで得られる主なメリットを挙げると、〇人手不足の解消、〇人員を過酷・危険な環境から解放、〇生産性・作業効率の向上、〇高精度な加工が可能、〇自動化された高速な処理、〇品質の安定化……等々があり、それぞれの詳細まで挙げると枚挙にいとまがありません。
導入の際には、作業工程に合わせて最適な機種を選択していくので、ロボット導入によって得られるメリットが最大化できるよう、まずは自社の生産工程について詳細な棚卸しをすることが必要となります。
産業用ロボットの種類と役割
工場で使用されるロボットには、以下で説明するように、多関節型や直交ロボットなどさまざまな種類があります。ここでは、産業用ロボットの大まかな分類と使用場面について見ていきましょう。
垂直多関節ロボット
垂直多関節ロボットは複数の関節を持ち、人の動きに近い繊細な動作が可能です。そのことから、高温や騒音の激しい現場など、人間にとって過酷な環境での作業を代行することが可能になり、自動化できるという点が大きなメリットです。
人間の手に相当する先端部分(エンドエフェクタ)を交換することで、溶接や搬送などさまざまな用途で使うことが可能です。比較的狭いスペースへの設置も可能ですが、高速な作業が求められる場合には適さない可能性があります。
水平多関節ロボット
水平多関節ロボットはスカラ(Selective Compliance Assembly Robot Armの略称)ロボットとも呼ばれ、水平方向に動作する複数の回転軸とアームを備えた水平多関節型のロボットです。先端部が上下に動き、基板の組み立てや部品の選別、配置、ねじ締めなどで使われます。比較的低コストで導入できることはメリットの一つといえるでしょう。
操作がしやすい上に高速作業に長けていますが、水平方向の動作に限定されるため、垂直多関節ロボットのような汎用性には乏しいところがあります。
直交ロボット
直交ロボットはガントリー(門形の跨線式クレーン)ロボットとも呼ばれ、2~3軸の直交するスライド軸で構成されています。基板や半導体などの小さな部品の組み立てや食品、医療、薬品の分野で多く使われています。直線的な動作に限定されますが、ブレが少なく精度の高い作業ができることが特徴です。
直交ロボットはその構造上、複雑な動きをさせることが難しい点と、設置面積が大きくなることを考慮しておかなければなりません。ただ、作業内容によっては、水平多関節ロボットなどと組み合わせることで目的を果たせる場合があることは、頭に入れておきたいところです。
双腕ロボット
文字通り2本のアームを持つロボットで、従来、人間が行ってきた複雑な作業をトレースし、自動化できることが大きな特徴です。双腕ロボットには垂直・水平多関節型があり、導入コストは比較的低く、作業スペースを取らないのが特徴です。
ただし、2本のアームの動作それぞれのティーチング(プログラムによって作業内容を入力する工程)が複雑化し、工数がかかることは否めません。また、重量物を持つには適していません。
パラレルリンクロボット
ジョイント(関節部)で接合される複数のリンク(アーム)がパラレル(並列)に連結されたロボットで、わかりやすいイメージとしては、ゲームセンターのクレーンゲームに近いでしょう。小型・軽量の製品のピックアップやプレース、組み立て作業などを、高速、高精度に処理、自動化することが可能です。
構造上、可搬重量や稼働範囲の制限がありますが、様々な分野の生産現場で人手不足問題の解消に役立っています。
パラレルリンクロボットについての詳細はこちらから。
自動車の生産ラインを支えるロボットとは
1960年代の高度経済成長期に自動車需要が大きく伸びたことを背景に、自動車業界では70年代に入るといち早くロボット導入を開始したといわれます。現在では世界に誇る日本車ブランドの成長は、産業用ロボットなくしては語れません。ここでは、自動車工場で使用されるロボットを例にとって、生産現場が求めるものや、ロボットが果たす役割について具体的に見ていきましょう。
プレス工程
プレス工程は、金属板を機械で圧縮してドアやボンネットなどを成形する作業です。成形したドアやボンネットを次の工程に送るために多関節ロボットが使われます。ロボットを使用することで、重量のある部品を素早く次の工程に搬送することが可能になり、生産効率が上がりました。
溶接工程
溶接は、電流やレーザー光線による熱を利用して金属を接合する工程です。溶接は、有害な紫外線や一酸化炭素、溶接ヒューム(気体化した金属)が発生するなど、人体にとっては非常に危険な作業です。溶接用多関節ロボットが人に代わって溶接を行うことで、人手不足問題の解消や生産効率が格段に上がるだけではなく、人が過酷な環境での作業をしなくても済むようになりました。
溶接ロボットに関しての詳細はこちらの記事もご覧ください。
塗装工程
塗装は、自動車のカラーリングやサビ防止のために行います。この工程では、垂直・水平多関節の塗装ロボットを使用します。塗装には何段階かの工程がありますが、自動車のサイズが大きいことから、そもそも人手で作業をしていたのでは非常に効率の悪いものになってしまいます。さらに、塗料には人体にとって有害な物質も含まれているため、この工程では塗装ロボットによる作業が欠かせません。ここでも生産性の向上だけでなく、作業者の安全と負担軽減に役立っているのです。
組立工程
組立は、購入者の注文の違いなどによって少量多品種となるため、作業員による手作業が多くなる工程です。コンベアの上を流れる車体に、多くの作業員によって様々なパーツが取り付けられます。ただし、エンジンやフロントガラスなど、サイズや重量の大きな部品の運搬や組み立てには、主に多関節ロボットが使用され役立っています。
検査工程
自動車の完成検査は、その安全性や環境性能を担保する上で非常に重要な工程で、資格を持った完成検査員が、国の定めた安全基準に適合しているかを検査します。検査項目には外観検査から走行テストまで、1台の自動車に対して1,500から最大2,000項目ほどの検査項目があります。
国土交通省は2021年11月に自動車型式指定規則等を改正し、AIによる完成検査の自動化が解禁されました。これにより、今後はAIや画像認識システムを搭載した検査ロボットによって、検査の合理化や、人員不足に起因する検査不正行為の防止に繋がっていくと見込まれています。
代表的なロボット製造メーカーとは?
日本は世界一のロボット生産国で、世界のロボット販売台数の6割が日本メーカ製となっています。しかしながら、その総出荷台数の8割は国外に向けたものとなっており(※1)、国内市場についてはまだ今後の伸び代を残している状況です。ここでは国内外の代表的なロボット製造メーカー4社と最近の取り組みをご紹介します。
メーカー一覧はこちらもご覧ください
川崎重工
RHP(Robust Humanoid Platform)「Kaleido」(アールエイチピー・カレイド)は、川崎重工が50年以上研究開発している人型ロボットで、身長180cm、体重80kgと、人間の大人とほぼ同じ体格を持っています。現在は、Kaleidoから派生した2つのロボット「Friends」と「Bex」の開発も進めています。
●7代目Kaleidoはどこが違うのか?
●人共存型ヒューマノイドロボット「RHP Friends」
安川電機
安川電機は、1977年からMOTOMAN(モートマン)というブランドで産業用ロボットを製造、50万台以上を世界中に販売しています。MOTOMANに組み込まれる主要部品であるサーボモータ、制御ソフトウェア、アプリケーションなどを自社開発し、その技術を応用した産業用ロボットが、自動車、電気・電子機器、半導体製造、バイオ、食品、医療品、物流など幅広い分野の生産現場で使用されています。
●安川電機の産業用ロボット
ファナック
ファナックは、産業用ロボットを開発から製造、販売まで行っています。多関節ロボットやパラレルリンクロボットを主力商品とし、主に機械加工や食品、電子機器などの分野で使用されています。IoTやAIの技術を、FA、ロボット、ロボマシンのすべての分野に積極的に適用していくことを基本姿勢として打ち出しています。
●ファナックのロボット
三菱電機
三菱電機は、MELFAというブランドで産業用ロボットを製造・販売、多関節ロボットを中心に物流や医療、食品の分野で主に使用されています。また、シーケンサ、表示器などのFA機器との親和性や、知能化アプリケーションへの対応など、工場のFA化に重点を置いています。
●三菱電機の産業用ロボット MELFA
ロボット導入のメリットと課題
産業用ロボットの導入は、上述のように人員不足の解消や生産効率の向上、品質の安定化などに大きく貢献します。単純な作業や、人間には負荷の大きな作業をロボットが行うことで、より重要な業務に人員を割くことができるようになり、企業全体の生産性の向上が期待できます。
一方で、おそらく多くの中小企業にとっての課題は、その導入コストでしょう。生産工程を抜本的に見直す場合は、社内の人員配置の問題も出てきます。ロボットの操作には資格が必要なため、人材の確保、育成にもコストがかかります。導入の初期コスト以外に、その後の生産工程の変更で費用が発生する可能性もあります。この辺りは、条件次第で大きく差が出るので、まずは自社の要件を精査した上で、専門家との相談、見積もりへと進めていくしかありません。
まとめ
戦後の高度経済成長期には大量生産をベースに急成長した日本の製造業ですが、現在は多品種少量生産が求められる時代です。今後はさらにニーズの細分化が進み、その製品ライフサイクルも短縮化されていくと見込まれています。
そのような流れに、工場の生産ラインも対応していかなければなりません。もちろん、その都度、人材の育成や教育を含めたラインの入れ替えを行っていくのは非現実的な話です。AIやセンサー、カメラ等を備えた産業用ロボットをどう活用し、対応させていくか、答えはそこで見つけるしかないのかもしれません。
ここは一旦コストのことは脇に置いて、近い将来、自社生産ラインが自動化された姿を思い描いてみる時間を作ってみてはいかがでしょう?
(※1):経済産業省/「ロボットを取り巻く環境変化と今後の施策の方向性~ロボットによる社会変革推進計画~」より。
ロボカルでは、ロボット設備導入のプロたちが、業者探しから導入後のアフターサポートまでお客様に寄り添いながら対応させて頂いています。
ご提案までは全て無料です。ロボットの導入にお悩みの方は、ぜひお気軽にロボカルにご相談ください。