目次
「多軸ロボットに種類があるのか知りたい」「自社の生産工程自動化のためロボット導入を検討している」こんな疑問やお悩みをお持ちではないでしょうか?本記事では、ロボット業界で10年以上働いている筆者が次の内容についてわかりやすく解説します。
・多軸ロボットの種類・メーカー
・多軸ロボットの用途
・多軸ロボットの価格
・多軸ロボット導入のポイント
この記事を読むと、多軸ロボットについてより深く知ることができ、ロボットを導入するにあたってのポイントがわかるようになります。多軸ロボットに興味を持った方、導入検討中の方は、ぜひ今回の記事を参考にしてみてください。
多軸ロボットとは
軸とは、人間の関節にあたるもので、ロボットが動作する箇所のことです。多軸ロボットとは、この軸を複数持つアーム型のロボットのことを言います。ロボットはほとんどの場合、複数の軸(=関節)の動作を組み合わせて作業を行います。
直動軸1軸だけの自動機を「単軸ロボット」と呼ぶことがあるので、それと区別して「多軸ロボット」と呼んでいます。現在稼働するほとんどの産業用ロボットは、複数の軸を持つため「多軸ロボット」と呼んで差しつかえないでしょう。
多軸ロボットの構造
多軸ロボットの構造は、リンク、ジョイント、モーター、減速機から成り立っています。
リンク
人間の骨にあたる部分で、ロボットアームの骨格となります。
ジョイント
人間の関節にあたる部分で、回転・直動の動きをします。
モーター
人間の筋肉にあたる部分で、ジョイントを動かす動力源となります。
減速機
モーターとともに人間の筋肉にあたる部分です。減速機は、モーターの力を数十倍~数百倍に増幅させる機械装置です。
モーターは速く回転するのは得意ですが、ロボットを動かすほど大きな力を出すのは苦手。減速機を使ってモーターの力を増幅させることで、多軸ロボットのジョイントを動かすことができます。
多軸ロボット8種類
多軸ロボットを構造で大まかに分類すると、次の8種類があります。
・垂直多関節ロボット
・スカラロボット(水平多関節ロボット)
・人協働ロボット
・パラレルリンクロボット
・円筒座標ロボット
・極座標ロボット
・直交ロボット
・双腕ロボット
垂直多関節ロボット
垂直多関節ロボットは、関節がベースから1軸ずつ上に積み上がるような構造をしており、人間の腕が行うような作業が得意です。
垂直多関節ロボットについては、こちらのページでも詳しく解説しています。
現在工場で稼働している垂直多関節ロボットの多くは6軸ですが、4軸、5軸、7軸のロボットもあります。人間の体で言うとおおむね1~3軸が腰から肩、4~6軸が肘から手先の役割となっています。
垂直多関節ロボットのメーカー
垂直多関節ロボットのメーカーは「ファナック」「川崎重工」「安川電機」「デンソーウェーブ」などです。
【関連記事】▶垂直多関節ロボットのメーカー20社と各社商品を紹介
スカラロボット(水平多関節ロボット)
スカラロボットの構造
スカラロボットは、水平方向に関節を配置したロボットです。1軸で上下、2~4軸が水平方向の回転、5軸が手先の上下動作を行います。スカラロボットは水平多関節ロボットとも呼ばれています。
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スカラロボットのメーカー
スカラロボットのメーカーは「セイコーエプソン」、「川崎重工」、「ヤマハ」、「芝浦機械」などです。
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人協働ロボット
人協働ロボットの構造
人協働ロボットとは、人の近くで働くことが前提として設計されたロボットです。外観は、垂直多関節ロボットと似ていますが、安全に配慮した構造になっており、万が一人と接触してもケガなどのリスクが抑えられています。
たとえば、アームを閉じてもすき間があり、手が挟まれないような構造となっています。人協働ロボットについては、こちらのページでも詳しく解説しています。
人協働ロボットのメーカー
人協働ロボットの代表的なメーカーは「Universal Robot」、「Techman Robot」、「川崎重工」です。人協働ロボットのメーカー一覧は、こちらのページをご覧ください。
パラレルリンクロボット
パラレルリンクロボットの構造
パラレルリンクロボットは、天井に取り付けられたベースに3本のアームが伸びて、手先につながる構造となっています。パラレルリンクロボットについては、こちらのページでも詳しく解説しています。
パラレルリンクロボットのメーカー
パラレルリンクロボットの代表的なメーカーは「ABB」、「ファナック」、「安川電機」、「川崎重工」です。パラレルリンクロボットのメーカー一覧は、こちらのページをご覧ください。
円筒座標ロボット
円筒座標ロボットの構造
円筒座標ロボットは、円柱状のベースにアームが付いている構造となっています。このロボットのアーム動作は、円筒座標系(R、θ、Z)で表すことができます。
・アームは半径方向に伸縮する(R方向)
・アームはベース上の回転軸を中心に回転する(θ方向)
・アームは円柱の軸方向に上下移動する(Z方向)
現在稼働している円筒座標ロボットの主な用途は、クリーンルームではたらくウエハ搬送搬送用途です。円筒座標ロボットについては、こちらのページでも詳しく解説しています。
円筒座標ロボットのメーカー
円筒座標ロボットのメーカーは「川崎重工」、「安川電機」、「ローツェ」、「PERSIMMON TECHNOLOGIES」などです。
極座標ロボット
極座標ロボットの構造
極座標ロボットは、基部が回転するベースに伸縮可能なアームが付いている構造となっています。このロボットのアーム動作は、極座標系(R、θ、Φ)で表すことができます。
・アームは半径方向に伸縮する(R方向)
・アームはベースを中心に上下方向に動く(θ方向)
・アームはベースを中心に向きを変えられる(Φ方向)
円筒座標ロボットと動きが似ていますが、
・円筒座標ロボットはアーム自体が上下に移動する
・極座標ロボットはアームの基部が回転して手先が上下に動く
という違いがあります。両者の違いは、こちらのページもご参照ください。極座標ロボットは、最初の産業用ロボットとして採用された歴史的に意義のあるロボットです。しかし、産業用ロボットの高精度化や電動化の流れにより、現在は垂直多関節ロボットなどに代替されています。
極座標ロボットのメーカー
極座標ロボットのメーカーは「ユニメーション」、「川崎重工」などです。
直交ロボット
直交ロボットの構造
直交ロボットは、X軸・Y軸・Z軸の直動軸を組み合わせた構造です。門型のような見た目をしています。直交ロボットは比較的構造が簡単なため、ロボット導入のコストをおさえることができます。直交ロボットについては、こちらのページでも詳しく解説しています。
直交ロボットのメーカー
直交ロボットの代表的なメーカーは「IAI」、「ヤマハ発動機」です。直交ロボットのメーカー一覧は、こちらのページをご覧ください。
双腕ロボット
双腕ロボットの構造
双腕ロボットは、その名の通り腕(アーム)が2本あるロボットです。アームが2本あることから、片方のアームで部品をおさえつつ、もう片方のアームで組み立てなどの作業が行えます。
そのため、複雑な作業がロボット1台で実現でき、作業スペースを簡略化できることがメリットです。双腕ロボットについては、こちらのページでも詳しく解説しています。
双腕ロボットのメーカー
2023年2月現在、双腕ロボットを製造・販売しているメーカーは「川崎重工」、「川田工業」、「安川電機」、「ABB」です。
多軸ロボットの用途3選
ロボットの用途は多岐にわたり、さまざまな産業分野で使用されています。ここでは、ロボットを導入する工程で最も多い「成形・加工」「搬送」「溶接」の3つの使用例を紹介します。
この3つの工程は、日刊工業新聞社の「2022年中小企業ロボットアンケート」において、ロボットを導入する工程の上位3つの結果です。現在の産業用ロボットの多くの使用例をカバーしていると言えます。
出展:日刊工業新聞 2022年3月9日
多軸ロボットの使用例①:成形・加工
成形・加工工程では、次のような工程で多軸ロボットが使用されています。
・射出成型後の部品を取り出し、ゲートカット
・成形後の部品の穴あけ加工
・ブロー成型の不要部分のカット
成形後の部品を直交型ロボットが取り出し、垂直多関節ロボットがその部品を受け取ってゲートカット後、次の工程に渡す、という使用例があります。
多軸ロボットの使用例②:搬送
搬送工程では、次のような工程で多軸ロボットが使用されています。
工作機械へのワークの設置・取り出し
ロボットが加工前のワークを工作機械に設置し、加工が終わったワークを取り出し、パレットやコンベヤに置く、という工程です。この工程では垂直多関節ロボットがよく使われています。
ウエハ搬送
半導体製造装置の内部にはロボットが内蔵されており、プロセス室へのウエハの設置・取り出しを行います。半導体製造装置内には複数のプロセス室が水平方向に設置されており、このような搬送には水平多関節ロボットや円筒座標ロボットがよく使われています。
多軸ロボットの使用例③:溶接
代表的なものは、自動車のボディや自動車部品の溶接工程です。生産効率を上げるためには1日で多くの部品を作る(溶接する)必要があるため、繰り返し同じ動作を正確にすることが求められます。
溶接工程は、繰り返し同じ動作を正確に行うことが得意なロボットの特徴が活かせる工程と言えます。溶接用ロボットや、溶接の種類(アーク溶接・スポット溶接)については、次の記事で詳しく解説しています。
【関連記事】
▶溶接用ロボットとは?導入時のポイントや活用事例も合わせて紹介!
▶スポット溶接とは?基本知識から、メリット・デメリットまで解説!
多軸ロボットの価格
多軸ロボット本体の一般的な価格帯は100万円~500万円
多軸ロボット本体の価格帯は、おおむね100万円~500万円と言えます。ロボットの価格はメーカーオープン価格のため、多くの場合開示されていません。この価格帯は一般的に入手できる情報からの参考価格となります。
小型ロボットや比較的安価なロボットであれば、100万円台から、一般的に生産ラインで使用される大きさのロボットでは300万円~500万円程度の価格と言えるでしょう。近年では、資源価格や人件費の上昇、半導体不足による需給バランスの崩れから、ロボットの価格は上昇する傾向にあります。
また、特殊な仕様のロボットや、特殊な環境ではたらくロボットについては、これらの価格帯よりも高価になる傾向があります。多軸ロボットの正確な価格を知りたい場合はロボットメーカーからの見積もりを入手するのがよいでしょう。
ロボットシステム全体の価格に注意
ロボットを生産工程に導入する場合、産業用ロボットの本体以外にもコストがかかります。たとえばロボット本体以外にも、次のような費用が発生することが想定できます。
・ロボットを設置するための土台(架台)
・ロボットハンド:ロボットがワークをつかむのに必要
・センサー類:画像認識をするための装置
・PLC:ロボットと周辺機器を連携させて、自動化のための一連の流れを制御する装置
・システムインテグレータ費用:ロボットのティーチングを行ったり、画像認識システムやPLCなどを組み合わせたりしてひとつのシステムにするための費用
ロボット本体が数百万円だとしても、これらの費用を合算すると、ロボット1台のシステムを構築する場合1000万円~数千万円単位での費用がかかることを想定するのがいいでしょう。
ロボットの価格についての参考リンク
ロボカルでは、各種ロボットの導入価格や、導入のハードルを下げるための補助金制度、低価格ロボットの紹介もしています。ロボットの価格についてより深く知りたい方は、次の記事も参考にしてみてください。
【関連記事】
▶産業用ロボットの導入価格は?費用対効果の計算法や補助金制度を紹介
▶低価格の多関節ロボットを紹介!コストを抑えて導入する方法も解説!
▶パラレルリンクロボットの価格は?メーカーごとの製品を紹介!
多軸ロボット導入のポイント
多軸ロボット導入の際に気を付けるポイントは、以下の通りです。
・目的をはっきりとさせておく
・価格・導入費用と効果が見合うか確認する
・ロボットに関する情報収集を行う
・「提案依頼書(RFP)」の原案を作成しておく
・導入を依頼する会社を選ぶ
各ポイントの詳細は、以下の記事で詳しく解説しているのでご参考ください。
【関連記事】
▶産業用ロボットの導入方法を詳しく解説!流れや事前準備について紹介!
多軸ロボットの導入はロボカルにお任せください!
「導入したい多軸ロボットはなんとなくわかったけど、自社の生産工程にどのように組み込めるのかわからない」「SIerとのつながりがなく、どのSIerを選べばよいかわからない」初めて多軸ロボットを導入する際は、こんな不安もあると思います。
ロボカルでは提携SIerさんのロボット導入事例をデータベース化しており、適切なSIerさんのご提案や、費用効果の高いシステム提案が可能です。多軸ロボットの導入を検討されている企業さんは、ぜひロボカルにご相談ください!
まとめ
この記事では、多軸ロボットについて次の内容で解説をしました。
・多軸ロボットの種類・メーカー
・多軸ロボットの用途
・多軸ロボットの価格
・多軸ロボットの導入のポイント
生産現場の人手不足、生産性向上、デジタルトランスフォーメーション(DX)の普及といった社会的トレンドを考えると、生産工程の自動化に貢献する搬送用ロボットの活躍はさらに拡大していくと予想されます。このトレンドに乗って自社工場の生産性をより上げていくために、多関節ロボットを導入してみませんか。
今回の記事をご覧になって、「ロボットの種類が多すぎて分からない」「ロボットメーカーやロボットSIerの適切な相談先がわからない」、という方はロボカルまでお気軽にご相談ください。
SIerのご紹介やロボット導入をサポートさせていただきます。