目次
作業する対象に触れるロボットハンドの機構は、対象の数だけあるとも言われています。この記事ではロボットハンドの機構を可能な限りシンプルにまとめ、それぞれの特徴について解説します。
・ロボットハンドの機構とはロボットハンドが動く仕組みのこと
・主に把持ハンドと吸着ハンドの2つの機構がある
・対象物の素材や大きさによって適した機構を選択する
ロボットハンドの機構とは?
ロボットハンドの機構とは、簡単に言えばロボットハンドの仕組みを指します。
ロボットハンドは、人間の手のように物をつかむための機構を持つロボットの一部で、指や指先などの部品を組み合わせることで物を掴む動作を行うことが出来ます。
基本的には、指や掌、関節にアクチュエータと制御装置がそれぞれ組み合わされる機構から成り立ちます。
それぞれについて詳しく解説します。
指の機構や設計ついて
ロボットハンドの指は、繊細な指の動作を実現するために、柔軟性のある素材が使用された関節機構が採用されます。
基部にあるモーターやギアには、指先に駆動力を伝える機構があります。
指先には、摩耗に強い素材が使用され、先端部には物体をしっかりと掴むことができるようにクローなどが装着されます。
他にも、指の内部にはセンサーやモニターが内蔵されていることもあります。
指の設計には、動作の繊細さや精度、頑丈さや摩耗対策が施されるなど、多様性に富んでいます。
動作の繊細さでは、指の曲がり方や回転の動作を人間に近付けることで繊細な動作が可能となるように設計されます。
動作の精度では、指の曲がる角度や回転の速度を正確に制御できるように設計することで、物体を正確に掴む動作を実現可能にしています。更に内部にセンサーやモニターが内蔵されている場合には、精度の向上などを目的としています。
指の頑丈さでは、指の材料や構造上の設計による実現を行っており、頑丈に作ることで強い力を発揮するために高い負荷に耐えられるように設計されます。
指先の摩耗では、対策として指の接触面に摩耗耐性が優れた材料を採用することで実現しています。また、グリップ力を維持するために指の表面に特殊な素材が採用されることがあります。
このように、ロボットハンドの設計では、構造だけでなく、素材や指の形状からサイズや特殊素材、先端部への装着物などを変更したり採用します。これにより、あらゆる大きさ、形状の物体を掴んだり繊細な動作を実現することを可能にしています。
関節の機構や設計ついて
ロボットハンドの関節は、高度な動作を実現するために繊細な設計が施されています。そのため、自由度を持つ多関節機構が採用されます。
多関節機構は、複数のジョイントを連結することで関節の自由度を高め、様々な方向に可動することができます。この機構によって、ロボットハンドは人間の手首や指の動きに近い柔軟性を持つことができます。
さらに、関節の設計には強度と軽量性のバランスが重視されます。基本的には、関節に軽量な素材であるアルミニウム合金が採用され、関節内部にモーターやギアなどの動力伝達部品が設置されます。
また、関節部分には高精度なセンサーが組み込まれ、関節の位置や角度などを正確に検知することができます。
こういった設計により、ロボットハンドは様々な物体を正確に安定した動作の実現を可能にしています。
関節の繊細さでは、関節の角度や回転速度を人間の手首の関節に近付けることで、回転と曲げが同時にできる技術も取り入れ、より繊細な動きの実現を可能にしています。
関節の精度では、高精度なセンサーやモーターを取り入れることで、関節の角度や回転角度を正確に制御し、より精度の高い高度な動作を実現可能にしています。
関節の頑丈さでは、関節の材料や構造上の設計による実現を行っており、頑丈に作ることで強い力を発揮するために高い負荷に耐えられるように設計されます。
関節の自由度では、多関節機構を取り入れ、ロボットハンドの柔軟性や運動範囲を調整することで、複数の自由度の実現が可能になりました。
ロボットハンドに合わせて、関節のサイズや形状を設計されていますが、関節の小型化により、軽量でコンパクトなロボットハンドを実現することも可能です。
掌の機構や設計ついて
ロボットハンドの掌は、パームやグリップパッド、フィンガーアレイやワイヤーから構成されており、指を動かすための機構やセンサーなどが内部に収納されています。こういった構造により、多様な動作を行えるように設計が施されています。
パームは、人間でいう平らな掌にあたり、この部分を元に構成されます。素材にはアルミニウムなどの軽量ながら強度の高い素材が採用されることが多く、指を固定するための部品などを取り付けるための穴が開いています。
グリップパッドは、パームの上に設置され、握力の役割を果たすため、素材にはシリコンなどの摩擦耐性が高く柔軟性のある素材が採用されます。こういった設計から、多種多様なサイズや形状の物体を掴む技術の実現を可能にしています。
フィンガーアレイは、パームに開けられた穴を利用して指の収納を行うだけでなく、指の繊細な動きを実現するために指を固定するクランプなどの部品が設置されています。素材にはアルミニウムの他に、プラスチックが採用されることもあります。フィンガーアレイの他の役割として、指先にセンサーを搭載されており、握力を調整する情報を制御に役立っています。
ロボットハンドの動力や制御を実現するために、掌の内部にはワイヤーが配線されており、モーターから指先まで
繋がっています。ワイヤーは様々な動きに耐えられるように設計されており、素材には強度と柔軟性が両立された素材が使用されています。
また、掌部にはモーターや駆動機構が搭載され、ワイヤーを通じて動力源となっているだけでなく、指の動作の制御を行うためのセンサーが搭載されており、重要な役割の多くを担っています。
ロボットハンドはロボットの部品の中でも対象物に直接触れる部分であるため、対象物の数だけ機構もあると言われています。
ロボットハンドの機構は主に2種類
ロボットハンドの機構はロボットが作業する対象の数だけありますが、大きく分けると「把持(はじ)ハンド」と「吸着ハンド」の2種類があります。それぞれについて詳しく解説します。
- 把持ハンド
- 吸着ハンド
把持ハンド
人の指のような形で対象物をつかむロボットハンドを「把持ハンド」と呼びます。クレーンのようにシンプルな関節もありますが、指の関節が人間のように複雑に曲がるものもあり、用途やつかむ対象によって使い分けられています。
吸着ハンド
「つかむ」という動作ではなく、「くっつける」という動作で対象物をつかむロボットハンドを「吸着ハンド」と呼びます。真空状態をつくって対象物を吸着させて運ぶタイプのものや、磁力で吸着させて運ぶタイプのものがあります。
それぞれのロボットハンドの特徴
把持ハンドと吸着ハンドはそれぞれ対象物をつかむ方法が異なるため、特異なものや苦手な作業などが異なります。それぞれの特徴について見ていきましょう。
把持ハンドの特徴
指を持つ把持ハンドの特徴としては、次の3つがあります。
- 指の本数は対象物によって異なる
- デリケートなハンドリングが求められるシーンで使われる
- 強い圧力が必要なシーンでも使用できる
指の本数は対象物によって異なる
把持ハンドの指の本数は2本や3本、4本のものがあります。軽いものや小さなものは2本指でつかみ、大きなものや形状が複雑なもの、2本指では安定しないものに関しては3本以上の指を使うことが一般的です。
なお、人間の手のように5本指のものもあり、4本の指を親指に該当する指と向き合う形で配列しているため、他の本数の指を持つロボットハンドと比べて、丁寧かつ対象物に負荷をかけずにつかめるという特徴があります。
デリケートなハンドリングが求められるシーンで使われる
食品や医療機器などの繊細なものを扱う際にも、大抵のケースにおいては3本以上の指の把持ハンドであれば対応できます。
面取りをして指の形状を滑らかにすることで、対象物を傷つけることなく運ぶことができるようになります。また、つかむ力をコントロールすることでもデリケートなものを扱えるようになるので、プログラミングで調整します。
強い圧力が必要なシーンでも使用できる
溶接や切削などの場面では、強い圧力でしっかりと対象物をつかむ必要があります。把持ハンドのつかむ力を強めに設定することで、圧力が必要なシーンでも対応できるようになります。
吸着ハンドの特徴
「つかむ」のではなく吸着させることで対象物を運ぶ吸着ハンドには、主に次の3つの特徴があります。
- 真空パッドで吸着させるものも多い
- 磁力によって吸着させるタイプもある
- 吸着パッドの数は対象物による
真空パッドで吸着させるものも多い
真空発生器で真空を発生させ、真空パッドに対象物を吸着させて運ぶタイプの吸着ハンドがあります。吸着するものの材質を問わず使用できるので、幅広い場面で使われています。
ただし、対象物の表面に穴が開いていたり、多孔質の表面のときは使えません。例えば発泡スチロールや外壁用ブロックなどは、多孔質のため真空状態を作ることができず、吸着することは不可能です。
磁力によって吸着させるタイプもある
電磁石の入/切で物体を吸着させるタイプの吸着ハンドもあります。なお、電磁石のオンオフは電流で行います。
鉄やニッケルコバルトなどの磁力に引き付けられる素材のものは吸着できますが、非鉄金属は吸着できないので用途は限定されます。ただし多孔質のものでも吸着できるので、金網や鉄製のスポンジなどには利用できます。
吸着パッドの数は対象物による
吸着ハンドによって、吸着パッド数が異なります。6点式のパッドは安定が高いですが、容易に吸着パッドにくっつくものや小さなものなどは少ないパッド数で運ぶこともあります。
ロボットハンドの選び方
どのロボットハンドが適しているか決める際には、次の要素を考慮してください。
- 対象物の重量
- 対象物の素材
- 対象物の形状
- 対象物の柔らかさ
- ロボットハンドの耐久性
- 搬送速度
対象物の重量
対象物の重量によって把持ハンドの指の圧力や、吸着パッドの数や磁力が変わります。一般的に対象物の重量が大きなときは把持ハンドの指の圧力は高めで、プログラミングによって対象物を破壊しない程度にコントロールされます。
また、重量が大きなときは吸着パッドの数も増やす必要があります。パッド数を増やすことで安定が増し、対象物の落下を回避することができます。
対象物の素材
対象物の素材によっては磁力や真空で吸着できないものもあります。その場合は把持ハンドを利用することになりますが、把持ハンドの指の数や圧力の強さについてはそれぞれ別個で検討しなくてはいけません。
また、液体など、把持ハンドでも吸着ハンドでも運べないものに関しては、取っ手付きの容器に入れてから把持ハンドで運ぶこともできます。
対象物の形状
対象物の形状に合わせて、把持ハンドの指の本数や大きさ等も変わります。
また、平面でないものは吸着パッドは使用できないこともあるので、把持ハンドで運べるように取っ手付きの容器に入れるなどの工夫が必要になることがあります。
対象物の柔らかさ
把持ハンドの指の圧力は、対象物の硬さ・柔らかさに応じて調整する必要があります。対象物が固いときは圧力は強めにしますが、柔軟性がないので圧力をかけすぎると破損してしまう可能性があります。
一方、対象物が柔らかいときは、圧力は低めが望ましいですが、低すぎるとつかむ力も弱くなり、対象物を落下させてしまう可能性があります。
ロボットハンドの耐久性
把持ハンドは長期にわたって使用できますが、エアを使った吸着ハンドは、フィルターの目詰まりやパッドの摩耗によって寿命が短くなってしまいます。また、磁力を利用した吸着ハンドも経年劣化で磁力が弱くなります。
搬送速度
把持ハンドはつかむ作業や離す作業に時間がかかってしまい、搬送速度が遅くなることがあります。スピーディな流れ作業には吸着パッドが向いていることが多いです。吸着ハンドであれば電源の入/切だけで「つかむ」「離す」を行えます。
ロボットハンドの機構について
ロボットハンドの機構は対象物の数だけありますが、大きく把持ハンドと吸着ハンドの2つの種類に分けることができます。
把持ハンドはつかむことで対象物を運ぶので力をコントロールした繊細な輸送が可能ですが、吸着ハンドはくっつけることで対象物を運ぶので「つかむ」と「離す」の作業に時間がかからずスピーディな搬送が可能と、それぞれ得意分野が異なります。
対象物の重さや形状、素材、柔らかさ、搬送速度などを考慮して、最適なロボットハンドの機構を選んでいきましょう。