目次
金属が持つ電気抵抗の力を利用するスポット溶接。手軽さと美しい仕上がりが魅力で自動車産業などを中心に重宝されています。本記事ではスポット溶接の原理や特徴、メリットやデメリット、向き・不向きについて一通り解説します。
・スポット溶接とは金属が持つ電力抵抗を利用して溶接する方法
・スポット溶接は電気代などのコストや電極の調整などは必要なものの、他の溶接よりも容易で高速、消耗品が少ないのがメリット
・スポット溶接に向いている母材は電気伝導率と熱伝導のバランスが取れている金属
スポット溶接は「圧接」の代表的手法
溶接とは金属同士を接合するための加工技術であり、その手法は一般的に次の3つに大別されます。
- 母材自体を溶解させることで接合する「融接」
- 母材とは別の材料を溶かし込んで接合する「ろう接」
- 加圧と熱の力で接合する「圧接」
このうち、本記事では圧接の代表的手法であるスポット溶接について解説します。
スポット溶接の原理
スポット溶接(または抵抗スポット溶接)とは金属が持つ電力抵抗を利用して金属同士をつなぎ合わせる方法です。下の動画にあるように、溶接したい母材を「チップ」と呼ばれる合金製の電極で挟み込み加圧しながら電気を流し、発生した抵抗熱を利用して金属同士を接合します。
日本におけるスポット溶接の歴史は長く、自動車板金や鉄道産業がさかんになった明治時代(1890年代頃)には手動式スポット溶接の原型が完成しました。その後時代の変遷と共にハイテク化が進み、近年ではスポット溶接用ロボットが登場するに至っています。
スポット溶接とその他の溶接方法との違い
スポット溶接と以下4つの溶接方法との違いについて解説します。
- プロジェクション溶接
- シーム溶接
- レーザー溶接
- アーク溶接
プロジェクション溶接との違い
プロジェクション溶接は溶接したい金属部品のどちらか一方に、プレス加工などでプロジェクション(突起)を作っておき、その突起に電流を流すことによって突起を溶かし溶接する方法です。
スポット溶接と同様にプロジェクション溶接も圧接の一種であり、電気抵抗を利用する点でも両者は類似していますが、スポット溶接は溶接したい金属の全範囲に電流を流すのに対し、プロジェクション溶接は母材の一部に突起を作って溶接するという違いがあります。
シーム溶接との違い
シーム溶接は溶接したい金属をローラー状の電極で挟み込み、電極を回転させながら連続的に電流を流すことによって溶接する方法です。
シーム溶接も圧接の一種ですが、スポット溶接は定点的に溶接するのに対し、シーム溶接では線状に溶接するという違いがあります。
レーザー溶接との違い
融接の一種であるレーザー溶接は、レーザー光で母材を溶かすことによって溶接する方法です。
スポット溶接では金属が持つ電気抵抗発生した熱を利用して接合するのに対し、レーザー溶接では母材にレーザー光を当てて発生した熱を利用して接合するという違いがあります。
アーク溶接との違い
融接の一種であるアーク溶接は空気中の放電現象を利用して金属同士を溶かして接合する方法です。
スポット溶接は金属が持つ電気抵抗を利用して金属同士を接合するのに対し、アーク溶接はアーク放電という放電現象を利用して母材を溶かして溶接するという違いがあります。
スポット溶接のメリット・デメリット
ここでは、スポット溶接の5つのメリット・2つのデメリットについて解説します。
メリット
- 他の溶接よりも容易
- 速度が速い
- 自動化しやすい
- 消耗品の無駄が少ない
- 異素材の溶接も可能
デメリット
- 電気代などのコストがかかる
- 母材の厚さ、素材によって電極を変える必要がある
それぞれ詳しく見ていきましょう。
メリット
他の溶接よりも容易
スポット溶接では母材を加圧しながら電流を流すというシンプルな手法なので、難しい技術や資格などは特に必要としません。他の溶接方法よりも比較的単純な条件設定のみで初心者でも実施することが可能です。
速度が速い
スポット溶接では母材に加圧して電気を流すだけのシンプルな手法であるが故に、溶接の速度が速いという点もメリットと言えます。
自動化しやすい
スポット溶接はシンプルな手法であるが故に、自動化しやすい点も魅力です。後述するように、近年ではスポット溶接に対応できる溶接ロボットも実用化され始めています。
消耗品の無駄が少ない
アーク溶接などでは溶接時に溶接棒などの消耗品が出る場合がありますが、スポット溶接では消耗品がほとんど出ません。そのため財務状況や地球環境にも優しい点がメリットと言えます。
異素材の溶接も可能
スポット溶接は電気を通しやすい材料(電気電導体)であれば溶接可能です。そのため工業製品などでよく使われるステンレス、ニッケルなどの異素材同士を溶接することも可能です。
デメリット
電気代などのコストがかかる
スポット溶接は溶接時に大電流を流します。そのため電気代や電源供給設備などの維持・管理コストがかかることは想定しておく必要があります。
母材の性質によって電極プラグを交換する必要がある
スポット溶接時には、母材の電気伝導率や熱伝導率により、電流の通りやすさが異なります。そのため母材に合わせてその都度最適な電極プラグに交換するという手間がかかります。
スポット溶接の向き・不向き
スポット溶接は電気抵抗を利用するため、一般的には電気伝導率と熱伝導のバランスが取れている金属が適しています。たとえばニッケルやステンレスといった金属はスポット溶接に比較的向いています。
一方、電気伝導率や熱伝導のバランスが取れていない金属は、スポット溶接には不向きです。たとえば銅やアルミニウム、メッキ鋼板などはスポット溶接でうまく溶接できない場合もあるため、代替策として合金で加工する方法や2段階で溶接する方法が用いられます。
このほかにスポット溶接の仕上がりを左右する要素は次の3点です。
- 加圧力
- 電流
- 通電時間
スポット溶接時には下記の条件表の数値などを目安に溶接テストを事前に実施し、強度などに問題がないかを確認します。問題があれば上記3つの値を微調整しながら、より最適な条件を探りましょう。
スポット溶接を効率化するには産業用ロボットを導入する
昨今の世界情勢や少子高齢化、感染症の蔓延などにより、日本のものづくり現場を取り巻く状況は一段と厳しさを増しています。
- 「限られた人数の中で生産性を上げたい」
- 「従業員の負担を軽減させたい」
- 「作業員の高齢化による技術継承問題を解消したい」
このような悩みを抱えている場合、産業用ロボットを導入することで以下のようなメリットが期待できます。
- 人件費が削減できる
- 人手不足を解消できる
- 生産性が向上する
- 危険な作業を人がしなくて済む
- 作業の質が担保される
溶接工程は熟練工の技術を必要とする作業も多いため産業用ロボットの参入が難しい分野でしたが、最近ではスポット溶接に対応できるロボットも実用化されつつあります。
まとめ
本記事ではスポット溶接の原理や他の溶接方法との違い、メリットやデメリット、向き・不向きについて解説しました。
金属に固有の電気抵抗の力を利用して接合するスポット溶接はその手軽さが最大の魅力です。電気代などのコストや電極の調整などは必要なものの、他の溶接よりも容易で高速、消耗品が少ないといった数々のメリットがあります。
近年ではスポット溶接を自動化できる産業用ロボットも実用化されつつあるので、FA(工場の自動化)を模索している方は溶接用ロボットの導入もぜひ検討してみてください。