目次
産業用ロボットを安全に長期間活用するためには、日々のメンテナンスが必要不可欠です。本記事では工場内で日常的にすべきメンテナンスに焦点を当てて解説します。よくある故障事例についても取り上げるので、メンテナンス時やトラブルシューティングの参考にしてみてください。
・産業用ロボットに必要なメンテナンスには日常点検・定期点検・故障時の修理・リニューアルなどがある
・社内のメンテナンス担当者には安全衛生・リスクアセスメントをはじめとするさまざまな専門知識やスキルが求められる
・よくある故障事例はサーボモーターの不具合・断線・マニピュレーターの劣化の3つ
産業用ロボットのメンテナンスは法律で義務付けられている
厚生労働省が定める「労働安全衛生法第28条第1項」には、労働環境における危険防止措置、労働災害の防止策といった内容が示されています。
さらに、上述の労働安全衛生法に基づいて制定された「産業用ロボットの使用等の安全基準に関する技術上の指針 5-2 定期検査」においては、事業者が産業用ロボットを運用するうえでのメンテナンスの重要性が明記されています。
産業用ロボットのメンテナンスが必要な理由
産業用ロボットのメンテナンスが必要な理由は、主に次の3点です。
- 作業員の安全を守るため
- 出来るだけ長持ちさせるため
- 外部の故障要因を特定するため
作業員の安全を守るため
上述の「労働安全衛生法」には、産業用ロボットなどを使用する際に作業員の安全を確保するための指針が明記されています。産業用ロボットは工場の生産性に大きく寄与する一方で、メンテナンスを怠れば怪我や事故に繋がる可能性が常にあります。
そのため産業用ロボットに携わる現場では定期的にメンテナンスを実施し、作業員の安全を確保しなければなりません。
出来るだけ長持ちさせるため
メーカーの保証期限までロボットが最適な条件で動き続けるためには、経年劣化の恐れがある部品やグリース(潤滑油)などの定期的なメンテナンスが必要不可欠です。特に、ロボットの主要部品である駆動部は特に劣化・故障しやすいのでこまめなメンテナンスが必要です。
外部の故障要因を特定するため
メンテナンスを実施することで、故障に繋がる要因を見つけ出し予防することにも繋がります。たとえば部品の劣化が想定よりも早い場合には、周辺装置との相性や稼働負荷過多など、寿命とは別の問題が潜んでいる可能性があります。
そのような潜在的問題にいち早く気づき対処するためにも、こまめなメンテナンスが必要不可欠です。
産業用ロボット利用時に必要なメンテナンスの種類
産業用ロボット利用時に必要なメンテナンスは主に4種類あります。
- 日常点検
- 定期点検
- 故障時の修理
- リニューアル
日常点検
産業用ロボットは一般的な機械装置と同様に経年劣化するため、部品の消耗などによるトラブルを未然に防止するためにも、毎日のメンテナンスが必要不可欠です。
製造現場によっては昼夜連続稼働するロボットもあるため適切な点検のタイミングは各社によって異なりますが、稼働前後に社内で定めたチェック項目に沿って簡易点検を実施するといった施策が考えられます。
定期点検
自動車に車検があるのと同様に、産業用ロボットの場合にも、大規模な定期点検が義務付けられています。定期点検ではロボットメーカーやロボットシステムインテグレーターなどの外部業者を招致し、工場内のシステムを全て停止した上で実施するのが一般的です。
故障時の修理
産業用ロボットに故障が発見された際には随時ロボットメーカーに依頼して部品交換や修理を実施します。
故障の程度が軽い場合には、ロボットメーカーに出張修理を依頼する「オンコール修理」で済むこともありますが、故障の程度が重い場合には、故障機を一旦メーカーに送って修理してもらう「メーカー持ち込み修理」を実施する場合もあります。
リニューアル
メーカーの保証期間を過ぎた産業用ロボットは、経年劣化による不具合により工場の生産性を落とさないためにも、出来るだけ早い段階で新しいものに買い換えるのが原則です。ロボットの搬入・搬出や新しいロボットに対するティーチング期間も考慮の上で、できる限り現有ロボットの保証期間中に買い替えを進めましょう。
産業用ロボットのメンテナンス時にチェックしたい項目
厚生労働省が定める「産業用ロボットの使用等の安全基準に関する技術上の指針」では、基本的なメンテナンス項目として下記の9項目が挙げられています。これらに加え、現場環境や生産ラインの性質、ロボットの種類などを考慮の上、自社独自のチェック項目も盛り込むと良いでしょう。
- 主要部品のボルトのゆるみの有無
- 可動部分の潤滑状態その他可動部分に係る異常の有無
- 動力伝達部分の異常の有無
- 油圧及び空圧系統の異常の有無
- 電気系統の異常の有無
- 作動の異常を検出する機能の異常の有無
- エンコーダの異常の有無
- サーボ系統の異常の有無
- ストッパーの異常の有無
産業用ロボットのメンテナンスに必要な知識・スキル
ここでは産業用ロボットのメンテナンスを担当する人材に求められる知識やスキルについて解説します。
- 安全衛生・リスクアセスメントに関する知識
- ロボット本体および周辺設備に関する知識
- 部品交換作業の段取り
- メンテナンス後の性能評価
安全衛生・リスクアセスメントに関する知識・スキル
産業用ロボットのメンテナンスを実施する人は「労働安全衛生規則第39条」に定められているように「特別教育」を受講することが大前提となります。
産業用ロボットのメンテナンス不備による労働災害を防止するためにも、リスクアセスメントの知識とスキルは必須です。
ロボット本体および周辺設備に関する知識・スキル
当然のことながら、産業用ロボットのメンテナンスを適切に実施するためには、自社内で稼働しているロボットの仕様や構造を熟知しておく必要があります。
特に、下記のような主要部品についての基本特徴や保証期間などはメーカーが発行する取扱説明書をよく読んで必ず理解しておきましょう。
- 減速機
- モータ・エンコーダ
- ベルト
- ベアリング
- 配線
- 制御基板
またロボット本体以外にも、空圧機器や各種センサなどのロボット周辺機器に関する知識やスキルも必要となります。
部品交換作業の段取り
定期点検は外部業者に委託する場合が一般的ではありますが、立ち入り検査がスムーズに進めるためのメーカーとのやりとりや実施準備などの段取り経験、部品取扱い時の注意点などについての知識もあることが望ましいです。
メンテナンス後の分析・評価
メンテナンス時に部品交換や修理を実施した場合、修理後のロボットが正常に稼働しているか否かを分析・評価するためのスキルも求められます。
産業用ロボットのメンテナンスにかかる費用
産業用ロボットのメンテナンスには少なくとも以下のコストを必要経費として想定しておく必要があります。
- 定期点検の基本料金
- 交換する部品の代金
- 部品を交換した際の調整料
定期点検の基本料金
定期点検を申し込むために支払う基本料です。ロボットメーカーやロボットシステムインテグレーターに定期点検を委託する場合には、基本料のほかに出張費用などが別途必要になる場合もあります。
交換する部品の代金
オーバーホール(経年劣化による部品の交換・再組み立て)で発生しうる部品実費です。
部品を交換した際の調整料
部品交換などを行う際に業者に作業費として支払う費用です。
よくある産業用ロボットの故障事例3選
ここでは産業用ロボットによくある故障事例とその原因について紹介します。もしもあなたの会社と似たケースがありましたら、メンテナンス時の参考にしてみてください。
サーボモーターの不具合
多くの場合、産業用ロボットの制御装置(コントローラー)にはロボットの動作を制御する「サーボ」という機構が内蔵されています。サーボを起動するためのモーター(サーボモーター)にかかる負荷が大きすぎる場合、位置精度や運動速度の低下といった不具合を起こすことがあります。
サーボモーターの不具合をパソコンにたとえると、メモリの処理能力がアプリケーションの負荷に耐えられず、動きが遅くなったりフリーズしたりする状態です。これを防止するためには使用ロボットのスペックなどを確認しながら、稼働時間や稼働内容が適切かどうかを今一度見直す必要があります。
断線
産業用ロボットには通信用ケーブルなどが複数接続されています。こういったケーブルが強い衝撃や電圧負荷などで断線してしまうと、産業用ロボットが突然稼働停止してしまったり、プログラム通りに稼働しなくなったりする恐れがあります。
ロボットの動作が不安定な状態だと予測不能な動作が行われ、事故につながる可能性があるため、ケーブルが周辺機器の下敷きになっていないか、傷や劣化などがないかを日頃から目視で確認するようにしましょう。
マニピュレーターの経年劣化
一般的にマニピュレーター(ロボットアームの部分)には動きを柔軟にするためにグリース (潤滑油)が使われていますが、グリースの経年劣化は故障の原因となります。
グリースが乾燥や高温によって経年劣化すると、部品同士の摩耗や破損が起こります。そのため、グリース(潤滑油)の拭き取り・補給は必要不可欠なメンテナンスです。
マニピュレーターは製品のハンドリング・塗装・溶接といった作業を担うため、故障すると作業の精度が落ち製品の品質劣化に繋がる可能性があるため、日常的なメンテナンスが必要不可欠です。
まとめ
本記事では工場内で日常的にすべきメンテナンスに焦点を当てて解説しました。
産業用ロボットの使用時には、日常点検はもちろん定期点検や故障時の修理、リニューアルなど様々な周期で実施されるメンテナンスがあります。また産業用ロボットでよくある故障事例はサーボモーターの不具合、断線、マニピュレーターの劣化の3つです。
こういった故障を未然に防ぎロボットを安全に長期間活用できるよう、日頃からメンテナンスを重視しましょう。