目次
工場における生産活動の運用方式の一つ「トヨタ生産方式」。
多くの工場等の製造現場のみならず、付随するスタッフ部門などでトヨタ生産方式が取り入れられています。今回は、あらためてトヨタ生産方式の定義を解説するとともに、産業用ロボットの活用の可能性について紹介します。
・トヨタ生産方式は作業のムダを減らしながら顧客の要望に応えることができる
・トヨタ生産方式の2つの柱は「ジャストインタイム」「自動化」
・トヨタ生産方式の4つの仕組みは「改善」「見える化」「なぜ分析」「7つのムダどり」
・トヨタ生産方式の「自動化」を実現するために、産業用ロボットが効果的
トヨタ生産方式とは
トヨタ生産方式とは、ムダがない生産体制を構築するためにトヨタ自動車が生み出した生産方式のことです。
20世紀初頭、米国ではT型フォードの大量生産におけるライン作業が主流でした。トヨタ自動車では、米国とは異なる小ロットでの「多品種少量生産における原価低減」を目指し、現在のトヨタ生産方式を生み出しました。
在庫余りなどのムダを極力減らしながらも、顧客に安くて品質の良いモノを提供することに成功したのです。
トヨタ生産方式の特徴は「2つの柱」と「4つの仕組み」です。順を追って解説していきます。
トヨタ生産方式における2つの柱
トヨタ生産方式の基本思想「徹底的なムダ排除による原価低減」という信念を実現するための2本の柱を紹介します。
ジャストインタイム(Just In Time:JIT)
ジャストインタイム(JIT)とは、必要なものを必要な時に必要な量だけ生産・供給する仕組みと考え方です。後工程(顧客)からの要求に対して生産活動をすることで、現場の無駄をなくし生産効率を高めることが目的です。
ジャストインタイムには3つの原則があります。
後工程引取り
後工程引取りとは、後工程が必要なものを必要な数だけ前工程から引取る仕組みです。これは後工程(顧客)の需要に基づいた生産を行うためです。
この工程で使われているのが「かんばん方式」です。かんばんとは、部品の納入時間や数量が記載された作業指示書です。かんばん方式を使うことで、計画どおりにムダなく商品を生産でき、生産効率が上がります。
工程の流れ化
工程の流れ化とは、ひとつの製品が前工程から後工程へと停滞せず、後戻りせず、流れるようにする活動です。
工程内や工程間を停滞させず常に流れをつくることで、余分な在庫を持たないジャストインタイムにつながります。
タクトタイム
タクトタイムとは、1日の定時稼働時間を1日の生産必要数で割った指標です。
顧客の要求に合わせた必要数を、製品1個あたりどのようなペースで生産するかの目安となります。各々の工程がタクトタイムに対して遅すぎないか速すぎないかの指標を使い、作業者の「標準作業」も設定しています。
タクトタイムにより、生産数に応じて柔軟に対応できる人員を移動させることで、生産効率が高まります。
自働化(にんべんのついた自働化)
自働化(にんべんのじどうか)とは、「働」という字で書き表すように、人がいなくても機械設備本体の異常や、品質異常、作業の遅れなどの異常を検知する考え方です。
不良品の流出防止ができるだけでなく、異常の再発防止をはかることができ、工程上での品質向上が可能になります。また、自動で検知して異常を通知してくれるので、設備や工程を監視する人が不要になり、省人化も可能になります。
ただ、機械を買ってきてそのまま使用しているだけの人は「カタログエンジニア」と呼ばれています。トヨタ生産方式では、買ってきた機械に“人間の知恵”を織り込むことが求められるのです。
人が関わらない自動化をしてしまうと、機械へ改善(カイゼン)の知恵を織り込めなくなるというのがトヨタ生産方式の考え方なのです。
トヨタ生産方式における4つの仕組み
トヨタ生産方式を導入するための4つの手法を紹介します。
改善(カイゼン)
改善(カイゼン)とは、トヨタが目指す「より良いものを、より早く、より安く」を実現するための改善活動です。現状の生産体制に満足することなく、生産の効率や安全性を見直すことが主な目的です。
漢字で表記する「改善」は悪い点・欠点を修正するという意味ですが、トヨタ生産方式では「現場の作業効率を良くする」という意味で使われます。
そのため、トヨタ生産方式では「改善」ではなく「カイゼン」とカタカナで表記し、区別しています。また、この手法は海外でも浸透しており、「Kaizen」と表現されます。
見える化
何かトラブルや問題が発生した場合、その内容を全員で共有し見えるようにする考え方です。
トヨタ生産方式は、生産ラインに問題が発生すればラインを止めるルールがあります。問題が発生したことが全体に周知でき、全員が知恵を出して改善活動に取り組めます。
問題を見える化していけば、早期解決が可能なだけでなく再発防止も期待ができます。より問題が発生しにくい生産体制の構築が可能となります。
「なぜ」5回分析
問題が起きた時、「なぜこの問題が起きたのか?」に対する「なぜ」を5回繰り返し、真の原因にたどり着くための方法です。
表面的な問題の原因や場当たり的な問題の解決ではなく、真因を発見し問題再発を防ぐ狙いがあります。
責任追及よりも原因追究を重視するトヨタ生産方式の考え方のひとつです。
7つのムダどり
トヨタ生産方式はムダを徹底的に排除することが目的であり、そのために7種類のムダを省きます。付加価値を生まない作業と定義される7つのムダを紹介します。
作り過ぎのムダ | 必要のないものまで余分に作るムダを指します。 商品を作りすぎてしまうと在庫場所の確保、作業を行う手間や人員増加など様々なムダの発生に繋がります。 |
手持ちのムダ | 機械が正常稼働しているのに、作業者が機械の故障などの監視している行為のムダを指します。 作業者に生産性のない時間を生み出さない目的があります。 |
運搬のムダ | 製品が工程間をムダに移動することを指します。 ムダな運搬を省くためには、機械の能力差やレイアウトの点検などを行います。 |
加工のムダ | 適切な加工手段が選ばれていないために発生するムダです。 従来のやり方で作業を続けることで本来必要のない工程や作業を行ってしまうことも加工のムダとなります。 |
在庫のムダ | 在庫が多すぎて、保管場所を余分にとってしまうムダです。 在庫の保管場所は完成品だけでなく、材料や備品など施設内の全ての物のことを指します。 |
動作のムダ | 指先でできることを手でしたり、腕全体を使うなど、動作に関するムダのことです。 ひとつひとつの時間としては僅かですが、その動作を何回も繰り返すことによってムダな時間はどんどん大きくなっていきます。 |
不良をつくるムダ | 不良品や廃棄が必要なものを発生するムダのことです。 商品として出荷できないものの生産は会社にとって利益に繋がりません。 |
まとめ
トヨタ生産方式はムダの徹底的排除の思想と、作業工程の合理性を追い求めてシステム化した生産方式です。
トヨタ生産方式の掲げる「自働化」は、安全な仕事が確実にできるまで手作業でつくり込むことが重要になります。
人が手作業でラインをつくり込み、改善の積み上げで作業工程を磨き上げます。最終的には人であれ産業用ロボットであれ、誰がやっても同じ作業になることがトヨタ生産方式の狙いです。
確実性の高いラインにまで作り込まれた作業工程は、産業用ロボットが導入できる可能性が高いです。トヨタ生産方式を実現するために、人と産業用ロボットの共存を検討してみてはいかがでしょうか。