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数ある産業機械の中でも、最も使用されることが多いのが切削加工を行う切削機械です。本記事では、そんな切削機械の役割、種類、具体的なメーカーなどを紹介していきます。
切削機械とは何か?
切削機械とは、その名の通り切削加工を行う機械のことです。厳密には、切削機械ではなく工作機械と呼ばれます。工作機械の定義は、日本産業規格(JIS)において、下記のように定められています。
主として金属の工作物を、切削、研削などによって、又は電気、その他のエネルギーを利用して不要な部分を取り除き、所要の形状に作り上げる機械。ただし、使用中機械を手で保持したり、マグネットスタンド等によって固定するものを除く。狭義であることを特に強調するときには , 金属切削工作機械と表現することもある。
参考文献:一般社団法人 日本工作機械工業会( https://www.jmtba.or.jp/machine)
要約すると、切削機械は材料から不要な部分を取り除いて部品を作り上げる機械と言えます。また、日曜大工などで使用するハンドドリルなどは切削機械とは呼べません。
加工とは?機械加工の基礎
切削加工を理解する上で、まず前提として加工とはどう意味なのかを紐解いていきます。加工という言葉を辞書で調べると、「原料や材料に手を加えて製品にすること、またはその製作作業のこと」とあります。重要なのは「手を加えて」という部分です。身近な例で言えば、日曜大工で木をノコギリで切るのも加工であり、ペンキで色を塗るのも広義の意味では加工といえます。加工は、手の加え方によって種類を除去加工、塑性加工、付加加工の3種類に分類することができます。
除去加工
除去加工とは、不要な部分を削り落として製品を作る加工です。本記事で主題としている切削は除去加工の中に含まれます。切削以外には、電気の力で金属を溶解させ加工する放電加工、砥石を使って製品を磨き上げる研磨加工などがあります。
塑性加工
塑性加工とは、材料を変形させて製品を作る加工です。専用の機械で材料に大きな力を加えて、目的の形に変形させます。塑性加工の種類としては、自動車などに用いられるプレス加工や板金の曲げ加工などがあります。
付加加工
付加加工とは、材料に更に別の材料を付け加えることで製品を作る加工です。溶接加工などが代表例ですが、近年では3Dプリントによる金属の積層造形も話題となっています。
切削加工の役割
前項で示したとおり、加工には色々な種類があります。その中でも切削加工が持つ役割について解説していきます。
切削加工は、材料を削り取ることで不要部分を除去して製品を作り出す技術です。材料よりも硬い金属を工具として用いて、材料または工具を高速で回転させるながら接触させることで削り取ります。高い精度で加工を行うことができ、加工後の表面も光沢がある品質の良い面となります。例えば、自動車の金型や航空機のタービンといった高い精度が求められる部品を加工する際に使用されます。近年では、人工骨など医療分野でも使わるケースも増えてきました。
参考文献:https://www.mazak.jp/machines/by-industry/medical/
また他の加工方法に比べて、加工の制約も少なく、自由な加工が可能です。よって、切削加工は汎用性が高く、ものづくりの幅広い分野で活用されています。この世に存在する全ての機械は、源流を辿れば、必ずこの切削機械から生み出されています。切削加工を行う機械は、機械を作る機械という意味で母なる機械「マザーマシン」と呼ばれています。
切削加工の種類
切削加工の中にも更に種類があります。切削加工を大まかに分類すると、旋削加工とミーリング加工の2種類に分けることができます。
旋削加工
旋削加工は、材料が回転する加工です。主に円筒状の部品を加工することができます。イメージとしては、リンゴの皮むきのようなものです。ナイフをリンゴに当てて、リンゴ側を回して皮をむくのと同じように、旋削加工では回転した材料に固定された工具を当てることで金属を加工していきます。
ミーリング加工
ミーリング加工は、工具が回転する加工です。主に平面形状の部品を加工することができます。日曜大工などでドリルを使って木に穴をあけたことのある人は多いと思いますが、まさにそのイメージです。工具側を回転させて、固定した材料に当てることで金属を加工していきます。
世の中の大体のものは、円いものと四角いものの組合せです。つまり、旋削加工・ミーリング加工が出来れば、ほとんどの部品を形作ることができます。
切削機械の種類
切削機械の種類は、得意とする切削加工の種類で変わります。大きく分けると、旋盤、マシニングセンタ、複合加工機に分けることができます。
旋盤
旋削加工が得意な機械です。チャックと呼ばれる治具で材料を掴んで回転させます。刃物台にバイトと呼ばれる切削工具を取り付け、このバイトを回転する材料に押し当てることで加工を行います。
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マシニングセンタ
ミーリング加工が得意な機械です。主軸と呼ばれる回転部分に工具を取り付けて、テーブルと呼ばれる治具に材料を固定します。工具には平面を加工するエンドミルやフェイスミル、穴をあけるドリル、ねじを切るタップなど用途に合わせて多くの種類があります。
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複合加工機
1台の機械で旋削もミーリング加工も行うことができる機械です。従来は旋盤とマシニングセンタの2台の機械を渡り歩かなければ加工できなかった部品も、段取り替えなしで加工ができるようになり、生産性が向上します。昨今の人手不足の影響により、複合加工機の需要も高まっており、現在では多くの切削機械メーカーが開発に力を入れています。
主な切削機械メーカー
日本製の切削機械は技術力で世界をリードする存在です。かつては切削機械と言えば米国が世界的に有名でした。しかし、日本はその米国の技術力を吸収し、独自に発展させることで1982年には切削機械の生産額で米国を追い抜き、世界1位となりました。その後、26年間、世界1位に君臨し続け、切削機械と言えば日本というイメージを世界に植えつけました。2008年に生産額で中国に追い抜かれたものの、現在もドイツと2位争いを争っています。
参考文献:https://www.jmtba.or.jp/machine/japan-history
日本の切削機械メーカーを紹介していきます。
DMG森精機株式会社
世界最大の切削機械の総合メーカーです。機械単体だけでなく、周辺機器やシステム開発にも力を入れており、業界をリードする存在です。株式会社森精機製作所がドイツのギルデマイスターグループ(DMG)が資本提携を行い、2013年にDMG森精機という社名に変更されました。
ヤマザキマザック株式会社
日本を代表する切削機械メーカーの1つです。複合加工機を始めとするハイエンド機から、タレット旋盤と呼ばれるコモディティ機まで幅広いランナップの機械をそろえています。対話をするように加工プログラムが作成できるマザトロールというシステムも有名です。
オークマ株式会社
日本を代表する切削機械メーカーの1つです。製品の内製化に拘りも持っており、あらゆるものを自社内で開発する高い技術力が特徴です。造船のエンジン加工を行うような非常に大型な機械「門型マシニングセンタ」などが特に有名です。
株式会社牧野フライス製作所
日本を代表する切削機械メーカーの1つです。マシニングセンタや放電加工機などを製造しており、旋盤は扱っていません。堅牢で高速、高精度を特徴とする牧野フライス製作所の機械は、金型産業や航空機産業から特に人気があります。
ファナック株式会社
主に切削機械の制御装置や産業用ロボットの製造と販売を手掛けていますが、小型のマシニングセンタROBODRILLシリーズを主力とした切削機械の製造も行っています。ROBODRILLは安価で、高性能なため業界内で人気の高い機種です。
ブラザー工業株式会社
プリンターやミシンなどが有名な企業ですが、切削機械事業も行っています。小型のマシニングセンタであるスピーディオシリーズが有名で、小型ながら中型機に引けをとらない重切削が可能です。
株式会社ジェイテクト
日本を代表する切削機械メーカーの1つです。トヨタグループに属する切削機械メーカーであり、マシニングセンタや研削盤の製造を行っています。ジェイテクトは、切削機械の専業メーカーではなく、他にも自動車部品事業やベアリング事業なども行っています。
株式会社ツガミ
新潟に生産拠点を持つ切削機械メーカーです。小型で超精密工作機械が得意で特に旋盤系の機械が有名です。
芝浦機械株式会社
静岡県に本社を置く切削機械メーカーです。2022年に東芝機械株式会社が社名変更し、芝浦機械株式会社となりました。主にマシニングセンタの製造を行っており、特に大型の門型マシニングが有名です。
参考:https://www.shibaura-machine.co.jp/
シチズンマシナリー株式会社
シチズングループの傘下の切削機械メーカーです。主に旋盤の製造を行っており、中型から小型サイズの旋盤を得意としています。CNC自動旋盤では世界シェア1位を誇ります。
日本電産マシンツール株式会社
日本電産グループ傘下の切削機械メーカーです。2021年に三菱重工工作機械株式会社が買収し、日本電産マシンツールに社名変更しました。更に2022年には老舗の工作機械メーカーOKKを買収し、更に製品のラインナップを増やしました。主にマシニングセンタと研削盤を製造しています。
参考:https://www.nidec.com/jp/nidec-machinetool/
スター精密株式会社
静岡県に本社を置く中小企業の切削機械メーカーです。旋盤の製造を行っており、小型サイズの旋盤を得意としています。
碌々産業株式会社
静岡県に本社を置く中小企業の切削機械メーカーです。時計の部品加工などを行う微細加工の工作機械を得意としています。
参考:http://www.roku-roku.co.jp/
中村留精密工業株式会社
石川県に本社を置く中小企業の切削機械メーカーです。旋盤や旋盤ベースの複合加工機の製造を行っています。刃物台が2つあるマルチタレット機など、様々な種類の旋盤を取り扱っています。
参考:https://www.nakamura-tome.co.jp/
株式会社松浦機械製作所
福井県に本社を置く中小企業の切削機械メーカーです。マシニングセンタの製造を行っており、マシニングセンタに自動化装置を追加したMAM72シリーズが人気です。工作機械以外にも金属3Dプリンタの製造も行っています。
参考:https://www.matsuura.co.jp/japan/
株式会社TAKISAWA
岡山県に本社を置く中小企業の切削機械メーカーです。旋盤、マシニングセンタ、複合加工機など幅広く製造しています。特に旋盤系の機械を得意としています。2022年に株式会社滝澤鉄工所から株式会社TAKISAWAへ社名を変更しています。
参考:https://www.takisawa.co.jp/
安田工業株式会社
岡山に本社を置く中小企業の切削機械メーカーです。主にマシニングセンタの製作を行っています。他のメーカーと比較して、特に精度の追求に力をいれており、機種によってはサブミクロンの位置決め精度を達成しています。
株式会社ソディック
神奈川県に本社を置く切削機械メーカーです。工作機械の他にも、射出正規機や3Dプリンタなど幅広く産業機械を開発しています。
まとめ
本記事の要点を復習しましょう。
– 切削機械とは、材料から不要な部分を取り除いて部品を作り上げる機械
– 加工には、除去加工、塑性加工、付加加工の3種類がある
– 切削加工は、旋削とミーリング加工に分類される
– 旋削を行う機械を旋盤といい、ミーリング加工を行う機械をマシニングセンタという
– 日本には数多くの切削機械メーカーがある
切削機械は産業を支える大切な機械です。そして日本を代表する技術の結晶でもあります。部品の精度は、その国の製造業のレベルそのものです。つまり、言い換えれば切削機械の性能がその国の製造業のレベルとなります。数ある産業機械の中でも、特に重要な役割を果たすのが切削機械だということを本記事で理解していただければ嬉しいです。