目次
製造現場にとって重労働ともなりうる塗装工程をサポートしてくれる塗装ロボット。この記事を読むことで塗装(ペイント)ロボットの種類や特徴、導入事例、取り扱いメーカーまでを網羅的に学ぶことができます。
・塗装ロボットとはロボットアームに塗装用器具が付加されている産業用ロボットのこと
・塗装ロボットは「静電塗装」にも対応可能
・塗装ロボットを導入することで、労働環境の改善や業務の効率化、技術継承
といった効果が期待できる
塗装ロボットとは
塗装ロボットとは、ロボットアームに塗装用器具(スプレーガンなど)が装着されているものを指し、自動車塗装などに使用されている大型ロボットから、電子部品などに使用される小型ロボットまで幅広いサイズがあります。
自動車産業を中心に、屋根、日用品、各種部品などの様々な塗装現場で、塗装ロボットの導入が進んでいます。
塗装ロボットのメリットは多岐に渡ります。
一つ目のメリットとして、人手による塗装作業に比べても、高精度且つ高速な塗装が可能で、コストの削減や作業時間の短縮が挙げられます。
次に、塗装作業中に発生する有害物質を低減することができるため、作業者の健康面を配慮した安全性などの観点からも優れています。
自動車産業などの品質への要求が高い業界や建築分野などでも、塗装ロボットの導入が加速しています。
食品や医療器具などの分野でも、衛生面の配慮から塗装ロボットの導入が期待されています。
昨今では、AI技術の進歩に伴い、塗装ロボットも自己学習が可能となっていることから、今後は塗装現場に応じて塗装方法の選択や、品質管理などの向上が期待されています。
塗装(ペイント)ロボットの種類
塗装(ペイント)ロボットは形状によって次の3つに大別されます。
- 垂直多関節ロボット
- スカラロボット
- 直角座標ロボット
一つずつ見ていきましょう。
垂直多関節ロボット
垂直多関節ロボットは人間の腕のように3次元的かつ自由度の高い動きを実現できるロボットです。汎用性が高く導入しやすいこともあり、2021年現在産業用ロボットの中で主流となっている形状です。
塗装用の垂直多関節ロボットは5~6軸(関節)構造が一般的であり、ティーチング次第で熟練工のように繊細な塗装作業も再現することができます。
またロボットアームの先端部の「エンドエフェクタ」には用途に合わせて最適な塗装ガンを取り付けることができるので、複雑な形状の塗装にも対応することができます。
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スカラロボット(水平多関節ロボット)
スカラロボット(水平多関節ロボット)は水平方向への高速移動を得意とするロボットです。
3つの回転動作と1つの上下動作を基本としており可動範囲に制限はありますが、上下方向の剛性に優れています。主に平たい形状のワークへの塗装に適しています。
直角座標ロボット
直角座標ロボットは3軸がスライドすることによって移動するロボットです。
比較的低コストで導入できる一方、アーム型の垂直多関節ロボットなどと比較すると複雑な動作はできないため、シンプルかつ均一な形状のワークへの塗装が向いています。
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塗装ロボット(ペイント)の塗装方式
ここでは塗装(ペイント)ロボットで採用されている塗装方式について解説します。
塗装ロボットは自動車業界を中心に様々な産業分野で用いられていますが、ベース(着色)やクリア(仕上げ)を含むほとんどの塗装工程では、仕上がりの美しい「静電塗装」が採用されています。
静電塗装
静電塗装とは静電気の仕組みを利用した塗装方法です。電気を発生させるためには正極と負極が必要ですが、静電塗装ではワーク(被塗物)を正極、塗装ロボット(塗料噴霧装置)を負極として、微粒化した塗料を負に帯電させます。
帯電した塗料は電流の原理によって負極の塗装ロボットから正極のワークに向かって移動・塗着するため、塗料の無駄が少なく財務状況にも環境にも優しい点がメリットです。
また静電塗装では微粒化した塗料を使用することでより美しい仕上がりを実現できます。その仕上がりの美しさと作業効率の良さから、大量生産を必要とする現場で特に重宝されています。
塗料の微粒化は塗装用のスプレーガンを使っておこないます。ガンの方式にはいくつかの種類がありますが、塗装ロボットを使う現場では「回転霧化静電方式」を採用している場合が多いです。
回転霧化静電方式
回転霧化静電方式(または回転霧化方式)では、遠心力を使って塗料を霧化し噴出します。まずエアモータ(下図F)と一緒にタービン用の空気(下図E)を高速回転させることで、軸と軸受(ベアリング)の間に空気膜を構成します。
次に軸受面に圧縮した空気(下図C)を流入することによって「ベルカップ」と呼ばれるカップ状の装置(下図A)の内部に非接触の高速回転運動を作り出します。この回転運動により塗料(下図D)が微粒化されます。
最後にシェービングエア(下図B)の空気圧によって微粒化した塗料をワークに向かって噴出します。
その他の静電方式
塗料を微粒化するためのスプレーガンには、静電気の電圧を利用した「エア静電方式(静電霧化方式)」や塗料の液圧を利用した「エアラップ静電方式」などもあります。
塗装(ペイント)ロボットのメリット・デメリット
ここでは製造現場に塗装(ペイント)ロボットを導入する4つのメリットと3つのデメリットについて解説します。
メリット
- 労働環境の改善
- 複雑な形状の塗装に対応
- 熟練工の技術の再現・継承
- 品質・生産量が安定する
デメリット
- ロボットティーチングが必要
- 防爆対策が必要
- 十分な作業スペースが必要
詳しく見ていきましょう。
メリット
労働環境の改善
塗料が飛散する塗装工程は、作業者にとって過酷な労働環境だといえます。このような環境下での作業は、作業者の健康や安全面に問題を抱える可能性があります。
そのため、塗装ロボットを導入によって、これまでは人間がおこなっていた危険な作業を減らすことができることから労働環境の改善につながります。
塗装ロボットは、作業員の負担を軽減するだけでなく、塗料の飛散を最小限に抑えながら、高精度且つ高速な塗装が可能です。
複雑な形状の塗装に対応
塗装ロボットは、人間の腕に近い動きが再現できることから、複雑な塗装作業を長時間にわたって手作業で行う必要がなくなります。
屋根の塗装など足場の悪い現場での作業は、作業員の安全性が問題となることがありましたが、塗装ロボットで代替することにより、安全を確保しながら業務を効率化することができます。このように、塗装ロボットの導入は、労働環境の改善や作業の効率化につながります。
熟練工の技術の再現・継承
中小企業を含めて、人手不足に悩まされている塗装現場は少なくありません。
しかし、塗装ロボットによる自動化は、この問題を解決するための有効な手段です。
塗装ロボットは、ロボットティーチングによって、熟練工のような均一でムラのない塗装を実現することができます。この技術は、同じ塗装作業を繰り返す必要がある場合に非常に有効で、作業の効率性を高めることができます。
また、熟練工の動きをロボットに学習させることで技術継承問題に対する解決策の一つとなります。熟練工の技術をロボットに取り入れることで、技術を継承し、高品質な製品を生産することが可能になります。
塗装ロボットは、生産性の向上や製品品質の向上に大きく貢献するため、中小企業でも導入することにより、人手不足や技術継承の問題を解決し、競争力を向上させることができます。
品質・生産量が安定する
塗装ロボットは、一定の作業を一定品質で一定時間継続することができるため、製品品質や生産量を高水準で安定させることが可能です。こういった性能から品質管理や納期管理が容易になるというメリットがあります。
さらに、塗料の消費量についても無駄が少ないため、事業費管理も容易になります。塗料は、ロボットによって均等に塗布され、適切な量が使用されます。このことから、人手での塗装よりも正確で効率的な塗装が可能なので、結果として生産性の向上にもつながるメリットもあります。
メリットを最大限に生かすために、適切な設置と保守管理が必要です。しかし、その努力は、安定した製品品質と生産性の向上という大きな利益につながります。
デメリット
ロボットティーチングが必要
産業用ロボットを動かしたり、動きを調整するためには、ロボットティーチングというプロセスが必要です。このプロセスには、時間と金銭的コストが発生します。ロボットティーチングは、システムインテグレーターなどの専門業者に委託することも可能ですが、社内においてもできるだけ早い段階でロボットの専門知識を持った人材を育成しておくと安心です。
ロボットティーチングでは、ロボットが実行する基本動作だけでなく複雑な動作まで指示することが出来ます。ロボットを使用する業務の増加に比例して、時間とコストが増加します。
【関連記事】塗装ロボットのティーチング方法|簡単なシステムやおすすめのSIerを紹介!
防爆対策が必要
塗装ロボットはロボットに塗装ガンが取り付けられているという構造上、塗装時に舞い上がった塗料がロボット自身にも噴霧されてしまう可能性があります。可燃性塗料がロボットに付着した場合、塗装ロボットから出る火花で爆発するリスクがあります。
昨今の技術の進歩により塗装ロボットは防爆対策がされているのが一般的ですが、工場内でロボットを使い回す場合には注意が必要です。別の作業ですでにロボットを導入している場合、そのロボットが塗装作業に対応できるかどうか、安全面などを確認した上で稼働しましょう。
【関連記事】塗装ロボットのカバーのメリットは?取り扱っているメーカーについても紹介
十分な作業スペースが必要
塗装ロボットを導入する際には、ロボット本体を配置するだけでなく、周辺設備などを設置するためのスペースを確保する必要があります。
例えば、塗装ロボットを近くにいる作業者のいる環境で運用する場合、ロボットの種類によっては法的に安全柵の設置が義務付けられる場合があります。
さらに、複数のロボットを使用する場合には、ロボット同士の衝突を防止するために、スペースの確保が必要です。これらの点を十分に考慮して、設備やスペースを確保することが、効率的なロボット運用と安全性の確保につながります。
塗装(ペイント)ロボットの導入事例
ここでは様々な産業分野における塗装(ペイント)ロボットの導入事例を3つ紹介します。
エアタンクの塗装システム
従来は熟練工に頼っていたエアタンクの塗装作業に塗装ロボット(垂直多関節ロボット)を導入しました。
その結果、エアタンクを自動的に識別、塗装、乾燥、搬送、管理できるようになり、生産量が1日あたり15個から23個に増加。さらに4人必要だった作業者を3人に省人化することができました。
事例の引用元:『ロボット導入実証事業 事例紹介ハンドブック2017』p.30
ローラのハンドリングおよびタッチアップ塗装システム
1日に35トンにもおよぶローラの吊り・降ろしと有機溶剤によるタッチアップ作業を含む塗装工程に塗装ロボット(垂直多関節ロボット)を導入しました。
その結果、過酷な作業環境が大きく改善するとともに、労働生産性を5倍に高めることに成功しました。
事例の引用元:『ロボット導入実証事業 事例紹介ハンドブック2017』p.34
伝統工芸山中漆器の塗装システム
熟練技術を必要とするため手作業で行なっていた山中漆器の塗装作業に塗装ロボット(垂直多関節ロボット)を導入しました。
その結果、これまで塗装職人とアシスタントの2名で行っていた作業をアシスタント1名で行うことが可能となり、生産性が大きく向上しました。
また熟練工の技術がデジタル保存されたことによって、少子高齢化による技術継承問題に対処するための一つモデルケースともなりました。
事例の引用元:『ロボット導入実証事業 事例紹介ハンドブック2017』p.38
塗装(ペイント)ロボットのメーカー一覧
塗装(ペイント)ロボットを取り扱っている主要メーカーの一覧(全5社;2021年現在)を表に示します。
塗装ロボットの主要メーカー5社(五十音順)
メーカー名 | 本社 | 公式ウェブサイト |
株式会社常盤電機 | 岐阜県 | https://www.tokiden.co.jp/ |
株式会社安川電機 | 福岡県 | https://www.yaskawa.co.jp/ |
タクボエンジニアリング株式会社 | 東京都 | https://www.takubo.co.jp/j/ |
浜松コジマヤ興業株式会社 | 静岡県 | http://kojimaya-kogyo.com/ |
Sames Kremlin | プリマス(アメリカ合衆国) | https://www.sames-kremlin.com/japan/jp/sames-kremlin.html |
実際の現場にロボットシステムを導入する場合は、ロボットの付帯設備の設計・製作・設置が必要です。付帯設備には以下のようなものがあります。
- 安全柵
- 制御盤
- 架台
- エンドエフェクター(ロボットハンド)
- 搬送装置
こういった付帯設備を含むシステムの設計・制作・設置はロボットシステムインテグレーター(ロボットSIer)に依頼するのが一般的であり、費用が別途発生します。その他にもロボットティーチングやメンテナンスといった時間的・金銭的コストも想定しておく必要があります。
塗装(ペイント)ロボットについて
本記事では塗装(ペイント)ロボットの特徴や形状、塗装方式、メリットやデメリット、導入事例、取り扱いメーカーについて一通り解説しました。
塗装ロボットを導入することで、労働環境の改善や業務の効率化、技術継承
といった効果が期待できるため、自動車をはじめとして各種工業製品や日用品、伝統工芸品に至るまで、様々な塗装現場で塗装ロボットの導入が加速しています。
自社にも塗装ロボットを導入してみたいと思われた方は、この記事で紹介したメリット・デメリットや導入事例、おすすめメーカーなどをぜひ参考にしてみてください。