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アーク溶接ロボットとは、アーク溶接を行うロボットのことです。アーク溶接は高温状態で行い、なおかつ気体化した金属を吸い込むことがあるため、ロボットの需要が多い作業です。アーク溶接ロボットの用途や仕組み、具体的な製品について解説します。
・アーク溶接を行うアーク溶接ロボットは、ほかの溶接ロボットに比べてやや小型
・アーク溶接は高温での作業となり、ヒュームを発生するので、ロボットによる作業の需要が高い
・アーク溶接ロボットを使うと、品質が安定し、なおかつ溶接スピードが速いというメリットもある
アーク溶接ロボットとは
アーク溶接ロボットとは、アーク溶接を行うロボットのことです。ほかの溶接ロボットと比べてやや小型なものが多く、工場などの作業場から、個人の作業場など、さまざまな場所で使用されています。
アーク溶接の際には、アーク放電によって強烈な光と強力な紫外線が放出されます。そのため、作業者は非常に高い温度で作業を行い、やけどの危険が伴います。また、金属が蒸気となったヒュームを吸い込む危険もあるので、ロボットのニーズが高い作業です。
アーク溶接ロボットの用途
アーク溶接ロボットが使用される場面としては、以下の2つを挙げられます。
- 金属同士の接続
- 大型機械の接続
金属同士の接続
鉄鋼同士やアルミニウム、チタンといった金属を接続する際に、アーク溶接ロボットが用いられます。アーク溶接ロボットは、ほぼすべての金属の構造物に適用が可能です。
大型機械の接続
鉄骨フレームや建設機械、自動車、航空機、船舶、鉄道の車両といった大型の機械の溶接にも、アーク溶接ロボットが用いられます。アーク溶接は接着面を広くすることで、大型機械にも活用できます。
アーク溶接ロボットの仕組み
アーク溶接ロボットの仕組みはシンプルです。アーク放電を起こして溶接しますが、金属によっても放電状態を変化させることが必要なため、最初に溶接条件をティーチングしておくことで適切な作業を行えます。
アーク放電を起こす
空気中の放電を利用して、アーク放電を起こします。電極となる溶接棒に電流を流し、接合したい金属に接触させてから引き離すことでアーク放電は起こります。アークは最高20000℃にも達するほど高温なため、ほとんどの金属が素早く溶け、接合できる状態になります。
ロボットに溶接条件をティーチングする
ロボットに溶接の条件をティーチングし、設定します。この際の条件決めや位置決めがアーク溶接をスムーズに行うためには重要なので、実溶接を行いながら調整していきます。
アーク溶接ロボットの構造
アーク溶接ロボットは、以下の3つの部分から成り立ちます。
- マニピュレータ
- コントローラ
- プログラミングペンダント
マニピュレータ
マニピュレータは、ベース部分とリンク、ジョイント、エンドエフェクタから構成されています。エンドエフェクタに装着されている溶接トーチ(溶接用品部分)を取り替えることで、色々な金属の溶接を実現します。通常、マニピュレータは、サーボモーターによる複数軸多関節構造となっています。
コントローラ
コントローラは、読み込んだデータを保管する部分と、マニピュレータとの通信を行う部分で構成されています。アーク溶接ロボットの頭脳に該当する部分です。
プログラミングペンダント
プログラミングペンダントは、マニピュレータの動作手順に関するデータを作成したり、変更や修正などを行う部分です。接触する力や動作スピードなどを制御することで、さまざまな用途にアーク溶接ロボットが使えるようになります。ペンダントを直接操作してティーチングできるタイプのものもあります。
アーク溶接ロボットを使用するメリット
アーク溶接ロボットはメリットの多いロボットです。主なメリットとしては、次の4点を挙げられます。
- 溶接スピードが早い
- 高温環境で作業ができる
- 製品の質が安定する
- 危険を回避できる
溶接スピードが速い
アーク溶接ロボットは、人よりも手早く作業することが可能です。そのため、短時間で多数の製品製造が可能になります。
高温環境で作業ができる
アーク溶接ロボット自体、高温環境下での作業を想定して製造されています。金属が気化するような高温条件下でも作業が可能なので、人間では行えない作業にも適しています。
製品の質が安定する
アーク溶接ロボットは、プログラミング通りの作業を行います。作業の質が安定しているため、製品の質も安定し、人間がアーク溶接を行うよりも不良品発生率を抑えることができます。
危険を回避できる
溶接現場は、通常、高温かつ金属ガスが大気に含まれているので危険な環境です。アーク溶接ロボットを活用することで、人間の健康を守ることができます。
アーク溶接ロボット3選
アーク溶接に用いられているロボットを3つ紹介します。いずれも汎用性が高く、さまざまな金属溶接に活用することができます。
YASKAWA「MOTOMAN-AR700」
MOTOMAN-ARは、YASKAWAによるアーク溶接ロボットのシリーズ名です。MOTOMAN-AR700は小物部品の溶接に向き、省スペースな作業場で高品質に仕上げることができます。また、作業場内に、コントローラや電源を設置することで、ロボットの配置のレイアウト変更が簡単に行えます。
引用元:https://www.e-mechatronics.com/product/robot/arc/lineup/ar700/spec.html
ファナック「ARC Mate 100iD」
ファナック社の「ARC Mate 100iD」は、ケーブル内蔵のアーク溶接ロボットです。最大可搬重量は8kgから16kgと広く、大型の金属部品にも用いることができます。また、専用のギア駆動機構によってスリムなアーム形状となっているので、小回りが利く点も特徴です。
手首軸の中空径を広げることで、ワイヤーの供給装置をアーム後方に収納できます。省スペース型ですが、剛性が高く、高速動作が連続しても手振れがなく、位置決めが正確という特徴もあります。
引用元:https://www.fanuc.co.jp/ja/product/robot/f_r_arc.html
川崎重工業「BA006N」
川崎重工業の「BA006N」は、スポット溶接に特化したシリーズの中でも大型のアーク溶接ロボットです。手首の部分には中空構造を採用し、トーチ周りのケーブルのとり回しが容易です。
また、ワイヤ送給装置やケーブル類の処理が簡単なので、安定した溶接ワイヤの送給を実現しています。オフラインでのティーチングにも対応しているので、作業内容の変化に合わせて簡単に位置決めなどの条件調整を行えます。
引用元:https://robotics.kawasaki.com/ja1/products/robots/arc-welding/BA006N/
まとめ
アーク溶接ロボットは、人間にとって危険性が高い高温かつ金属ガス発生下でも作業が行えるロボットです。アーク溶接の技術を用いるとほとんどの種類の金属の溶接が可能なので、金属加工や自動車工場などで広く用いられています。対象物の大きさや作業場の広さ、また小回りが利くかどうかなどに合わせて、適切なアーク溶接ロボットを選んでいきましょう。