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近年、ロボットは大きな進化を遂げ、幅広い分野で使用されるようになりました。これまで「ロボット」と聞くと工場の製造ラインなどを思い浮かべるのが一般的でしたが、最近では、産業用ロボットをはじめとする多種多様なロボットが開発され、工場だけでなく、あらゆる分野で活躍するようになっています。
今後、ロボットはさらに活躍の場を広げ、ますます重要な存在になっていくでしょう。本記事では、産業用ロボットを中心にその種類や特徴を解説していきます。自社でのロボット導入を検討されている方は、ぜひ参考にしてみてください。
そもそも現実社会における「ロボット」とは?
ロボットは、「センサ、知能・制御系、駆動系の3つの要素技術を有する、知能化した機械システム」と定義されています。
上の定義は、2006年に経済産業省が発表した「ロボット政策研究会報告書」(※1)や2014年に国立研究開発法人「新エネルギー・産業技術総合開発機構」から出された「NEDOロボット白書2014」(※2)で用いられているもので、ロボットの定義として一般的です。
ほかに、産業用ロボットなど実用的な分野では、日本工業規格(JIS)が定める「2つ以上の軸についてプログラムによって動作し、ある程度の自立性をもち、環境内で動作して所期の作業を実行する運動機構」も使用されています。
現代のロボットは大きく2つのジャンルに分けられる
ロボットは大きく、次の2種類に分けられます。
- 産業用ロボット……工場のロボットアームなど、産業の自動化に使われるロボット。
- サービスロボット……医療用ロボットや宅配ロボットなど、サービス業で人間の仕事を代替してくれるロボット。
本記事では、2つのうち、主に産業用ロボットの種類や機能について、さらに詳しく取り上げていきます。
産業用ロボットをメカニズムで分類すると
産業用ロボットは、工場の自動化システム(ファクトリーオートメーション)など、名前の通り、産業分野で使用されるロボットです。
産業用ロボットは、三次元空間で任意の動作を行うため、複数の関節・軸が取り付けられており、配置や構成によって細かく分類されます。順を追ってみていきましょう。
協働ロボット
協働ロボットとは、人と一緒に作業ができる人間協調型の産業用ロボットです。従来のロボットは、主に単純作業の代替を目的としており、安全を確保するため、人が近づかないよう周囲に柵を設ける必要がありました。
しかし、協働ロボットは、これまでより柔軟な作業に対応可能で、人間と協力して働けるようになっており、安全技術向上と法律の緩和によって柵も必要なくなりました。中小規模のラインや変種変量生産にも対応でき、現在注目を集めているロボットです。まずは、これに関連する技術を4つ、みてみましょう。
ロボットアーム(ロボットハンド)
ロボットアームは、ロボットハンドとも呼ばれ、人間の腕や手の動きを再現したロボットです。通常はプログラムによって制御されており、人間のようにものを掴む、突く、回すなど、さまざまなハンドリング作業を行います。
双腕ロボット
2本の独立したアーム(ロボットアーム)を持つロボットシステムです。それぞれの腕が別々の役割をこなせるため、一方のアームで製品(ワーク)を持ち上げながら、もう片方で作業を行うなど、1本だけのロボットアームと比べて、より複雑な動作が可能になっています。
ツールチェンジャーとは?
ツールチェンジャーは、ロボットアームの先端に取り付けられている工具(エンドエフェクター)などを迅速に交換し、1台のロボットで複数の作業を行えるようにする機構です。ツール交換を自動的に行うことのできる機器も多く、ロボットの能力を拡張してくれるので、生産性の向上やタスクの多様性が広がります。
エンドエフェクターとは?
エンドエフェクターは、ロボットアームの先端に取り付けられる装置やツールのことで、人間の手や指の役割を果たす機器です。ツメや真空圧、マグネットなどを利用して、ものを掴んだり、持ち上げたり、工具を使ったりといった、さまざまな動作を行います。
垂直多関節ロボット
上にも出てきたロボットアームは垂直多関節ロボットというカテゴリーに含まれます。人間の腕のように複数の関節をもち、自由度の高い動作が可能なロボットです。一般のみなさんがニュース映像などで目にする産業用ロボットの代表格といえます。
三次元空間での作業に必要な6軸構成が主流となっており、自由な動作ができる反面、振動などの問題も起こりやすく、制御には精密さが求められます。
汎用性が高く、搬送や溶接、組立、塗装など多様な工程で導入されており、現在、最も多く使用されている産業用ロボットです。
スカラ(水平多関節)ロボット
水平方向にアームを動かして作業を行うロボットです。通常、アームの先端部は上下に移動できるようになっています。4軸構成で、水平方向には柔らかく、上下方向には高い剛性をもっているのが特徴です。
組立工程における部品の押し込み作業などに向いているほか、ものを掴んで移動させるピックアンドプレースなど、幅広く利用されています。
パラレルリンクロボット
パラレルリンクロボットは、機構部分を動作させるマニピュレータに、並列に接続された複数のリンク(軸)を連携して稼働させ、1点の動きを制御する「パラレルメカニズム」と呼ばれる方式を採用したロボットです。イメージとしては、”失敗しないUFOキャッチャー”です。
パラレルメカニズムによって、高速で高精度、高出力の作業が可能になり、高速ピックアンドプレースや細かな箱詰め、製品のわずかな差異を検出する工程など、多関節ロボットには難しい作業にも対応できます。
直交ロボット
直交ロボットは、いくつかの直交するスライド軸(単軸)ユニットを組み合わせて構成されたロボットです。スライド軸で動作するため、ガントリーロボットとも呼ばれます。
複雑な動きはできませんが、シンプルな設計のため自由度が高く、多様なニーズに対応可能です。単純な作りのため、企業によっては製造部門で自作される場合もあります。導入も比較的容易で、最近では多関節ロボットと合わせて使用されるケースも増えているロボットです。
産業用ロボットを用途別に分類してみると
産業用ロボットの活躍の場は、組立、加工から、溶接、搬送、検品などさまざまな現場で使用されており、決められた作業に特化したロボットも数多く生産されています。ここからは、産業用ロボットの分類を用途別にみていきましょう。
溶接ロボット
溶接作業に利用されるロボット。人間の補助がなくても独立して工程を行える自動溶接機で、事前にプログラムされた通りの安定した溶接作業が可能です。
溶接ロボットの導入により、作業員の技量や経験値による品質のバラツキをなくすことに加え、強い光や有害な煙による人体への健康被害など、従来、人の手による溶接が抱えていた問題の解消が期待されています。
アーク溶接ロボット
溶接のなかでも、特にアーク溶接作業用に作られたロボットです。2本の電極から発生するアークを利用したアーク溶接は安価で効率的な溶接が行える反面、溶接時に発生する有害なヒューム(蒸気化した金属が空気中で冷やされ、小さな粒子に変化したもの)や火傷、感電などの危険性がありました。
そのため、ロボットによる代替のメリットとニーズが高い分野で、アーク溶接ロボットを使用すれば、スピーディかつ安全に安定した品質でのアーク溶接が可能になります。
組み立てロボット
工場のラインなどで製品の組み立て作業を行うためのロボットで、自動車産業や電子機器・半導体、食品など、製造業の幅広い分野で使用されています。
一口に組み立てロボットといっても、要求される作業内容はさまざまで、垂直多関節ロボットやパラレルリンクロボット、直交ロボットなど、使われているロボットも多種多様です。
はんだ付けロボット
はんだ(軟ろう)を使って金属同士を溶着させる「はんだ付け」を自動で行うロボット。ロボットアームにはんだごてが装着されており、細かい部分の作業が得意で、大量生産よりも多品種生産に向いているのが特徴です。
多少時間はかかるものの、従来は機械が使えず、人の手に頼っていた精密な部分のはんだ付けを、繰り返し正確に行うことが可能になっています。
ねじ締めロボット
ねじ締め作業を自動でやってくれるロボットです。これまで、ねじ締めの自動化はハンディタイプのねじ締め機が主流でしたが、近年では、ロボットも増加しています。
エラー検出機能を備えており、単にねじを締めるだけでなく、浮きや落下、作業不良などを発見できるため、生産の安定化・品質向上につながるのもメリットです。
搬送ロボット
生産ライン上で、加工作業から組み立て作業への移行など、工程の切り替え時に製品(ワーク)や部材などを運ぶためのロボットです。
搬送ロボットには、前後や左右など2方向だけに動くスライダーやコンベアから別のコンベアへ物品を動かすスカラロボット、ロボット自体が移動して離れた場所まで物を運べるモバイルロボット(自律ロボット)など、さまざまな種類があります。
工場内の人員削減などを目的に導入され、労働力不足への対策として期待がかけられているロボットです。
モバイルロボット
自律走行できるロボットで、生産現場で人間の代わりに製造物品や部品・部材などを運ぶ搬送ロボットの1種です。
単純な搬送のほか、配達や周回などもできます。複数台の位置を一元管理しながら安全な通行や最適なルート選択を実施すれば、現場内の運搬効率最適化を実現可能です。
単軸ロボット
1方向のみの単純で直線的な動きをするロボットです。スライダー(スライド軸)とボールネジ、モータの3要素から成るシンプルな造りで、主にワーク搬送に用いられています。
単軸ロボットは、スライド軸同士を直交させると直交ロボットになりますが、他のロボットとの組み合わせで使われることも少なくなく、組み合わせ次第で多種多様な運用が可能になります。
平行チャックとは?
チャックとは、ロボットハンドで指やツメにあたる部分の機械駆動部のことで、その中でも主にワークの運搬などに使用される平行開閉式のチャックを平行チャックといいます。
平行チャックは、エアコンプレッサの圧縮空気を利用していて、軽量・コンパクトなのが特徴。ワークの大きさ・形状に合わせてツメを取り付けられるようになっており、搬送ロボットにとって重要な部品です。
ハンドリングロボット
ロボットアームなどを使用し、ライン上のワークを搬送するためのロボットです。搬送ロボットとも似ていますが、ハンドリングロボットの場合は、単に移動させるのではなく、ワークを積み上げたり、箱詰めしたりといった作業を行います。生産現場における人手不足問題を解消するロボットの一つとして期待されています。
パレタイジングロボット(パレタイザーロボット)
箱やケース、袋、カートンなどに荷詰めされた製品をパレットの上に積み上げていくロボットです。反対にパレットで運び込まれた製品を荷下ろしするロボットは、デパレタイジングロボットと呼ばれます。
人による作業が難しい重量物の積み上げに使用されており、積載時間の短縮に加え、作業時の事故や腰痛などの労災防止といった多くのメリットがあります。
ピックアンドプレースとは?
ライン上にあるワークなど、特定のものを掴んで移動させ、決められた位置で降ろすまでの一連の作業をピックアンドプレースといいます。
ピックアンドプレースは、工場の生産ラインを自動化する上では欠かせない作業です。ロボットの登場により、人が動かせない重量物からマイクロ単位の精密なワークまで、さまざまな物を対象に複雑かつ高度な工程の自動化が可能になりました。
バラマンとは?
バラマンは、バランサやハンドクレーンともいわれ、重量物を移動させるための装置です。普段は天井や床などに固定されており、作業員が操作を行うと、重量物の持ち上げや移動、回転などが行えます。
現在、バラマンは主にロボットでの自動化が難しい場所で使用されていますが、今後、協働ロボットと組み合わせたバラマンが出てくれば、従来のロボットアームでは持ち上げられなかった重量物を運べるロボットも登場するかもしれません。
塗装ロボット
ロボットアームに取り付けられた塗装ガンを使用して、自動車のボディや建築物など、さまざまな塗装を行うロボットです。
複雑な形状や細かな部分の塗装ができ、ティーチングによる自動化にも対応可能な他、塗装ムラやミスなどを防げるため、導入すれば生産性向上につながるでしょう。また、有機溶剤による作業員の身体に対する悪影響を軽減する意味でも効果的です。
卓上型塗布ロボット
シーリングロボットともいわれ、接着剤やシール材、コーティング剤などを塗布するために用いられる小型の塗装ロボットです。
アームの先端に取り付けられたシリンジ(注射器)から決められた量の液体を吐出でき、従来のスポイトや刷毛を使う方法よりも安定した塗布で生産性向上が期待できます。また、コンパクトな設計で場所をとらず、導入しやすいのもメリットです。
検査ロボット
外観検査ロボットともいわれ、出来上がった製品の外観を検査して不良品を検出したり、出荷前の検品を行ったりするロボットです。従来、外観検査は、人の目や経験などに頼る部分が大きいため、自動化は難しいといわれてきました。
しかし最近では、AIを利用した画像検査などの技術進歩によりロボット導入が進んでおり、製造現場ではハンドリングから検査までを一括でこなすロボットも使われています。
クリーンロボット
クリーンルームロボットともいわれ、製造ラインのなかでも特に防塵性や気密性、清浄度の高いクリーンルーム内での作業を行うためのロボットです。主に、医療機器や半導体・ガラス基板などの電子製品、食品などの分野で利用されています。
産業用ドローン
新しいビジネスへの活用から、従来型業務の効率化やコスト削減、作業時のリスク低減などを目的として、さまざまな産業分野で注目を集めているドローンです。農業での農薬散布や空撮などを利用した測量、建築物の点検作業、警備など、幅広い業種で使用されています。
ドローンとは自立して動作する無人機の総称で、一般向けのホビー用ドローンと産業用との間に明確な違いはありません。ただし、産業用ドローンは用途に合わせて機能強化されていたり飛行性能に優れているので一般向けに比べて高価になります。
水上ドローン
自動操縦や遠隔操作によって、水上を航行できる小型ボートのようなドローンです。水上ドローンを積極的に導入しているのが漁業分野で、従来は有人船で行ってきた給餌、点検、測量などの置き換えや密猟の取り締まりなどに広く活用されています。
物流ドローン
主に物流業界で使用され、荷物の運搬や倉庫内での商品管理を行うドローンです。地上の障害物や交通渋滞の影響を受けないので配達効率が上がり、また、山間部や離島への荷物輸送にも有利です。外観は通常の飛行ドローンと同様ですが、重い荷物を決められた時間で配達しなければならないため、飛行性能と積載量が高くなっています。
ロボット導入の主なメリット
産業用ロボットを導入すれば、省人化や生産性向上、品質向上などのメリットが得られます。
ロボットの導入によって、同じ工程でも従来より作業員が少なくて済むため、人件費削減につながるとともに、少子高齢化による人手不足への対策にもなるでしょう。
ロボットなら、人的ミスやロスなどが発生しにくくなり、生産効率の向上も期待できます。また、作業員のスキルや経験値にも左右されず、均一で高水準な製品を継続的に製造可能になるため、品質の向上と安定化にも効果的です。
まとめ
今後はあらゆるマーケットのニーズがますます細分化され、多品種少量生産が求められる一方で、人手不足や技術者確保、固定費上昇とコスト削減……等々の問題は、企業の大小を問わず、つきまとい続けるのは間違いありません。AIやセンサの進化とともに、最近のロボット技術の進化が目覚ましいのには、こうした背景が大きな要因となっています。今後、さらに多種多様な現場でロボットが活用されていくことでしょう。
一口に「ロボット」といっても、非常に幅広い分野にまたがることがおわかりいただけたでしょうか。ぜひ一度、自社の業務を1から順を追って思い浮かべ、部分的にでも自動化のメリットがないか、脳内シミュレーションをしてみてください。
ロボカルでは、ロボット設備導入のプロたちが、業者探しから導入後のアフターサポートまでお客様に寄り添いながら対応させて頂いています。
ご提案までは全て無料です。ロボットの導入にお悩みの方は、ぜひお気軽にロボカルにご相談ください。
※1:経済産業省「ロボット政策研究会報告書 2006年」(国立国会図書館所蔵)
「ロボット政策研究会報告書 2006年」
※2:国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構「NEDOロボット白書2014」
「NEDOロボット白書2014」