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自動車に車検があるのと同じように、産業用ロボットにも法定点検が義務付けられています。本記事では産業用ロボットを安全かつ効率的に使うための安全基準や点検の種類について解説します。
点検の周期や費用といった実務的な内容についても触れるので、ぜひ参考にしてみてください。
・産業用ロボットの定期点検は法律によって義務付けられている
・日々のメンテナンスのほかに、外部業者の立ち合いのもとで実施する大規模な定期点検も必要
・定期点検では劣化部品の交換やオーバーホールなどを実施
産業用ロボットの点検の重要性
「労働安全衛生法 第28条第1項」の安全基準によれば、ロボットシステムを運用する事業者は、作業開始前点検、定期検査が義務付けられています。また点検・検査時に異常が発見された場合には補修を行い、その記録を3年間保存する旨が記載されています。
また厚生労働省が定める「産業用ロボットの使用等の安全基準に関する技術上の指針 5-2 定期検査」には産業用ロボットを運用するうえでの定期点検の基本指針が示されており、具体的な点検項目として下記の9項目が挙げられています。
- 主要部品のボルトのゆるみの有無
- 可動部分の潤滑状態その他可動部分に係る異常の有無
- 動力伝達部分の異常の有無
- 油圧及び空圧系統の異常の有無
- 電気系統の異常の有無
- 作動の異常を検出する機能の異常の有無
- エンコーダの異常の有無
- サーボ系統の異常の有無
- ストッパーの異常の有無
このように、産業用ロボットを安全かつ効率的に活用するためには定期点検が必須です。
産業用ロボット利用時に必要な定期点検の種類
産業用ロボット利用時に必要な定期点検は主に2種類あります。
- 日常的に実施する点検
- 一定周期ごとに実施する大規模な定期点検
詳しく見ていきましょう。
日常的に実施する点検
産業用ロボットは一般的な機械装置と同様に経年劣化するため、部品の消耗などによるトラブルを未然に防止するためにも、日々の稼働前後のメンテナンスやグリース(潤滑油)の拭き取りおよび補充、定期的な部品の劣化確認といった日々のメンテナンスが必要です。
一定周期ごとに実施する大規模な定期点検
産業用ロボットはもちろん工場内の全システムの稼働を停止して実施する大規模な定期点検です。定期点検は社内だけでなく外部業者の立ち合いのもとで実施します。
外部委託先としては、メンテナンス専門会社やロボットメーカー、ロボットシステムインテグレーターなどがあります。
産業用ロボットの定期点検の内容
定期点検の内容は産業用ロボットの種類によって多少異なりますが、一般的には次のような作業が実施されます。
- 部品交換
- オーバーホール
部品交換
摩耗や劣化が見られる部品は、故障予防のために定期点検時に交換します。定期点検時には、故障や事故を未然に防ぐために前もって部品を交換するなどの対策を取っておく「予防保全」の視点が重要となります。
オーバーホール
オーバーホールとはロボットを部品単位まで分解して点検・清掃したのちに再組み立てを実施することで性能を新品時の状態まで戻す作業です。
オーバーホールでロボットを分解した際に摩耗や劣化している部品が見つかれば、再組み立てをする際に新しい部品と交換します。オーバーホール期間を適切に設定することで、故障のリスクを最小限に抑えることが可能となります。
産業用ロボットの定期点検の周期
点検周期の目安として、溶接用ロボットの定期点検周期の一例を表にまとめました。
あくまで一例ですので、自社にて稼働中の産業用ロボットの点検時にはロボットを購入したメーカーや付帯設備を設計・開発したロボットシステムインテグレーターからの助言を仰いでください。
メンテナンス内容 | 周期 |
ファン清掃・送給装置点検 | 毎日 |
フレキシブルコンジット(フレコン)点検 ライナー清掃 | 毎週 |
ライナー交換 フレコン交換 フィーダ点検 ロボット年次点検 溶接機出力測定 溶接機年次点検 | 毎年 |
本体バッテリー交換 | 2年 |
本体グリース交換 トーチ・母材・ケーブル交換 | 3年 |
ティーチペンダント(TP)バッテリー交換 | 4年 |
オーバーホール実施 メインバッテリー交換 機構部品交換 タイミングベルト交換 | 使用開始から5年後以降 |
産業用ロボットの定期点検にかかる費用
産業用ロボットの定期点検にかかる費用はロボットの機種やメーカー、委託先によって異なりますが、一般的には以下のようなコストを想定しておくと良いでしょう。
定期点検の基本料
定期点検を申し込むために外部業者に対して支払う基本料です。委託先によっては出張費用などが別途必要になるこ場合もあります。
交換部品料
劣化部品を新しいものに交換した場合の実費です。メーカー部品供給期限が切れた後に部品交換が必要となった場合には、メーカーの滞留在庫にて交換部品をカバーすることになります。
一般的には、稼働開始から10年以上を経過した製品やメーカーの保証期間を過ぎた製品は部品製造自体が終了している可能性がありますので注意しましょう。
部品交換サービス料
部品交換を行う際の作業費として支払う費用です。
まとめ
本記事では、産業用ロボットを安全かつ効率的に使うための安全基準や定期点検の概要について解説しました。
産業用ロボットの定期点検は法律によって義務付けられています。工場内での日々のメンテナンスはもちろんのこと、外部業者の立ち合いのもとで一定周期で実施する大規模点検も必要です。
定期点検はメンテナンス専門会社やロボットメーカー、ロボットシステムインテグレーターなどで受け付けています。自社で稼働中のロボットに必要な定期点検について詳しくお知りになりたい方は、メーカーや設備を担当したロボットシステムインテグレーター、お近くのメンテナンス業者などに問い合わせてみてください。