目次
人と同じ環境で作業できる協働ロボットは安全の確保を行うために、法で定められた「リスクアセスメント」を行う義務があります。
また、安全要求のためにISOが設けられています。今回は協働ロボットのリスクアセスメントの手順やISOの安全要求について詳しく解説するので最後までお読みください。
・協働ロボットを安全柵なしで稼働させるためにはリスクアセスメントが必要
・ISOによって、協働ロボットおよびシステムの安全規格が定められている
・技術の進歩により、協働ロボットの規制や規則が緩和されてきている
協働ロボットの安全規格ではリスクアセスメントが要求されている
協働ロボットを導入するにあたり、リスクアセスメントを行うことは避けて通れません。
リスクアセスメントとは、人にとって危険性や有害性があるかどうかを調査することです。調査した結果、危険な点が見つかった場合1つ1つ対策を検討し、実施を行います。
リスクアセスメントは労働安全衛生法においても努力義務として行う必要があると定められています。
協働ロボットは人と同じ環境で働けるように設計されたロボットですが、安全柵なしで稼働させるために確実に安全であることを保証しなければなりません。
協働ロボットのリスクアセスメントの順序
リスクアセスメントの順序を見てみましょう。厚生労働省が発行した「危険性又は有害性等の調査等に関する指針」に基づいて行っていきます。
機械の動作制限の決定
まずは機械の動作制限を行います。協働ロボットや周辺機器を使用するときの動作範囲や設置場所の制限、動作する時間などを決めていきます。
危険源の特定
次にどのような危険源があるかを明確にします。ISO12100に記載されている危険源の一覧表の項目を1つ1つ確認しながら危険な箇所を特定します。
リスクを見積もる
特定を行った結果もし危険源が見つかれば、個々にリスクのレベルを見積もります。
危険源のリスクは協働ロボットの危険源によって災害が発生した時の「危害のひどさ」と「危害の発生確率」の組み合わせで点数付けを行います。
リスクの評価
リスクの見積りが終了したら、結果をもとにリスク低減を行うべきかどうかリスク評価を行います。リスク低減が必要であればリスク低減方策(3-ステップメソッド)を実施します。
許容可能なリスクレベルであれば、対策の必要はありません。ただし、許容可能なリスクレベルはどの規格にも明確に述べられていないため、自社でリスクアセスメントを行う前に決めておく必要があります。
協働ロボットで定められている安全規格
協働ロボットで定められている安全性要求には、次の3つの国際規格が存在します。
- ISO 10218-1:2011(JIS B8433-1:2015)
- ISO 10218-2:2011(JIS B 8433-2:2015)
- ISO/TS 15066:2016
ISO 10218-1
ISO 10218-1は産業用ロボットの設計および製造上の安全の保証のための要求事項が記載されています。協働ロボットを含めた産業用ロボットが対象となっています。
ISO 10218-2
ISO 10218-2はロボットシステムに関する安全要求が述べられています。ロボットシステムとは、エンドエフェクタやロボット周辺機器を含む生産ラインのことです。
ISO 10218-2の規格は主に、システムインテグレータ(SIer)が対象の安全規格となっています。
ISO/TS 15066
ISO/TS 15066は協働ロボットに関しての安全要求事項について述べられています。ISO 10218-1に記載されている協働ロボットに関する内容を補完している点が、ISO/TS 15066の特徴です。
ISO/TS 15066とISO 10218-1で定められている要求事項として以下の4つがあるので1つずつ紹介します。
安全適合の監視停止
安全適合の監視・停止では、ロボットの停止条件について記載されており、ISOの内容を簡単に説明すると以下のようになります。
- 一般的に産業用ロボットは作業者が協働作業の空間に存在しているときは、ロボットを停止しなければならない。
- 作業者が協働空間から離れればロボットを復帰させてもよい。
- 協働ロボットであれば、作業者が協働空間に存在していても停止せず作業が可能。
ハンドガイド
ハンドガイドは協働ロボットを操作する装置のことです。重量物を運ぶ協働ロボットを操作する場合に必要な規格となっています。ISOの内容を簡単に説明すると以下のようになります。
- ハンドガイド装置は、エンドエフェクタの近くに配置しなければならない。
- ハンドガイド装置には、安全機能である非常停止装置とイネーブルスイッチがなければならない。
- ロボットの安全な速度をリスクアセスメントで決めなければならない。また、教示作業中のロボットの移動速度は250mm/sを超えてはならない。
速度と間隔の監視
速度と間隔の監視では、ロボットと人の間隔とロボットの速度の関係について規定しています。ISOの内容を簡単に説明すると以下のようになります。
- ロボットは、決められた速度と作業者との間隔を保たなければならない。
- 速度と間隔に関連する不具合が検出された場合、保護停止にならなければならない。
- 協働運転のアプリケーションは、リスクアセスメントで決定しなければならない。
- ロボットの速度は、作業者との安全間隔距離を考慮して計算を行う。
この規格によって、人とロボットの距離によって、安全な範囲でロボットの速度を変更することが可能です。十分な距離をとれば高速で作業させることができ、生産スピードを向上させることができます。
本質的設計または制御による動力および力の制限
本質的設計または制御による動力および力の制限では、ロボットの動力と力の制限について記載されており、ISOの内容を簡単に説明すると以下のようになります。
- ロボットの動力又は力を制限する機能は、ロボットに不具合が起きても安全機能が喪失しないこと。
- 制限値を超えた場合、ロボットを停止しなければならない。
上記の2点の要求が満たされている場合、作業者とロボットは同じ空間で作業できます。
協働ロボットの安全規格や規則は緩和された
協働ロボットは技術の進歩もあり以前より安全規格や規則が緩和されました。そこで、どのように緩和されたのか詳しく紹介していきます。
緩和された規格や規則は以下の2つです。
- 日本工業規格
- 労働安全衛生規則
日本工業規格(JIS)
日本工業規格内の産業用ロボットについて記載されているISO 10218-1:2011(JIS B 8433-1:2015)が2015年に改訂し、規制が緩和されました。
改訂前は、ロボットの可動範囲に作業者が侵入した場合、ロボットの電源が自動的に落ち、動作が停止する仕様にしなければなりませんでした。
改訂によって、制御システムが妥当で、適切な取り扱いを行えば電源を落とす必要なしに動作停止することが認められるようになります。ただし、条件があり、技術ファイルと適合宣言書を作成した人物が製造者及び設置者でなければなりません。
労働安全衛生規則
労働安全衛生規則においても協働ロボットの規則が緩和されています。労働安全衛生規則とは労働者が安全な職場で働けるような環境づくりを促すために定められた労働安全衛生法内に記載されている規則です。
改訂前は、80W以上のロボットであれば、安全上柵を設置して、作業者がロボットの可動領域に侵入させないようにすることが定められていました。
改訂後は、ロボットを導入した企業がリスクアセスメントを実施し、産業用ロボットと接触しても大きな怪我になる可能性が低い場合、80W以上でも安全柵なしでロボットを稼働することが許可されました。
また、ISOの規格に基づいた産業用ロボットシステムで、製造者及び設置者が技術ファイル及び適合宣言書を作成しているのであれば、安全柵なしでロボットとの協働作業が可能になっています。
まとめ
協働ロボットの安全規格について紹介しました。協働ロボットを安全柵なしで作業させるためには必ずリスクアセスメントを行ってください。
また、ISOに記載されている項目を知っておくことで、安全性を考慮したロボットシステムを構築に役立つため、覚えておくことをおすすめします。システムインテグレータとともにあなたの工場で求められる生産ラインを是非立ち上げてみましょう。