目次
「クリーンルーム」とは「一定の基準を満たしており、管理されたきれいな空間」を指します。クリーンルームが満たしている基準や、用途・仕組み、クリーンルームを利用するメリットについて解説します。
・クリーンルームとは清浄度が極めて高い一定基準を満たした空間のこと
・主に「工業用クリーンルーム」と「バイオロジカルクリーンルーム」の2種類がある
・クリーンルームを利用することで品質向上や広告効果を見込める
クリーンルームとは
クリーンルームとは、清浄度が極めて高い部屋のことです。国際的な基準のひとつ、ISO14644-1では、空気中に浮遊している粒子の大きさごとに上限個数を定めてクリーンルームの清浄度を1~9の9つのクラスに分類しています。
例えばもっとも清浄度が高いclass1では、1立方メートル内には直径0.1㎛の粒子は10個まで、0.2㎛の粒子は2個までしか存在してはいけません。0.3㎛以上の粒子が1個でも含まれている場合や0.1㎛の粒子が11個以上、0.2㎛の粒子が3個以上含まれている場合は、class2以上の清浄度と判断することになります。
ISO14644-1における測定粒径ごとの1立方メートルの上限個数
0.1µm | 0.2µm | 0.3µm | 0.4µm | 0.5µm | 0.6µm | |
class1 | 10 | 2 | ― | ― | ― | ― |
class2 | 100 | 24 | 10 | ― | ― | ― |
class3 | 1,000 | 237 | 102 | 35 | ― | ― |
class4 | 10,000 | 2,370 | 1,020 | 352 | 83 | ― |
class5 | 100,000 | 23,700 | 10,200 | 3,520 | 832 | ― |
class6 | 1,000,000 | 237,000 | 102,000 | 35,200 | 8,320 | 293 |
class7 | ― | ― | ― | 352,000 | 83,200 | 2,930 |
class8 | ― | ― | ― | 3,520,000 | 832,000 | 29,300 |
class9 | ― | ― | ― | 35,200,000 | 8,320,000 | 293,000 |
クリーンルームでは、空気だけでなく、空間内で扱う物質においても極めて高い清浄度が求められます。そのため、クリーンルーム内で作業を行うと、異物が混入しにくく、高い衛生状態を保つことができます。
クリーンルームの4原則
クリーンルームをクリーンに維持するためには、次の4原則が守られなくてはいけません。
- 異物を持ち込まない
- 異物を発生させない
- 異物を堆積させない
- 異物を速やかに除去する
異物を持ち込まない
異物をクリーンルームに持ち込むと、クリーンルームの清浄性が失われてしまいます。異物を持ち込まないために、作業に用いる材料や機器は洗浄し、乾燥した状態で持ち込みます。
作業する人に付着して異物が持ち込まれる可能性があるので、出入りする際にはエアシャワーを通ることが必須です。また、クリーンルーム内の気流は常に内側から外側に流れ、空気に乗って異物が混入しないように配慮されます。
異物を発生させない
クリーンルーム内で異物が発生する可能性もないとは言えません。作業を行う人は無塵衣を着用し、作業に不要なものは一切持ち込まないようにします。クリーンルーム内で移動することでホコリが舞う可能性もあるので、できるだけ不要な動きをしないことも大切です。
異物を堆積させない
空気中に浮遊する異物が床に落ち、あるいは天井や壁に付着し、堆積する恐れもあります。異物が堆積しないように、クリーンルームは極力凹凸が少ない掃除しやすい部屋として設計します。
また、衣類や皮膚、作業機器などが帯電していると、異物を引き寄せやすくなります。除電してからクリーンルームに入ることも大切です。
異物を速やかに除去する
異物が排出されやすい構造であることも、クリーンルームを清浄に保つ条件となります。気流が室内にまんべんなく巡回できるように送風し、ホコリが発生しやすい場所を排気口とします。
クリーンルームの種類
クリーンルームは、何を製造するかで2つに分けることができます。半導体などを製造する「工業用クリーンルーム」と、食品や薬品を製造する「バイオロジカル(食品医薬品用)クリーンルーム」を用います。
工業用クリーンルーム
半導体や液晶、電子部品、レンズ、印刷などの高いレベルで異物混入を避ける必要がある製品の製造には、工業用クリーンルームが用いられます。精密機器や宇宙開発研究にも利用されることがあります。
バイオロジカルクリーンルーム
食品や医薬品の製造に用いるバイオロジカルクリーンルームでは、空気の清浄度だけでなく、微生物的な清浄度も高いレベルで求められます。無菌治療室や手術室としての医療用途や、培養や発酵、醸造などの微生物混入を防ぐ必要がある過程でも用いられます。
クリーンルームの仕組み
クリーンルームはどのような仕組みで清浄度を維持しているのでしょうか。そのカギとなるのが「空気循環」と「陽圧」の2つのキーワードです。それぞれ詳しく見ていきましょう。
空気循環によりクリーンルームをつくる
空気の循環方式は主に「非一方向流方式(乱流方式)」と「水平一方向流方式」、「垂直一方向流方式」の3つが用いられます。
- 非一方向流方式(乱流方式)
- 水平一方向流方式
- 垂直一方向流方式
非一方向流方式(乱流方式)
非一方向流方式とは、天井に吹き出し口を設け、気流を四方に拡散させてから下方の吸込み口に流す方式です。空気の流れが一定でないので管理しやすく幅広く利用されています。
水平一方向流方式
水平一方向流方式とは、吹き出し口の対面もしくは天井に吸込み口をつくることで、気流を水平にする方式です。微粒子が拡散されにくく排出されやすいという特徴があります。
垂直一方向流方式
垂直一方向流方式とは、天井に吹き出し口を設け、床下部分に吸込み口をつくることで気流を垂直に流す方式です。水平一方向流方式と同じく、微粒子が拡散されにくく排出されやすいという特徴を持ちます。
外部から異物が入らないように陽圧に保つ
外部から異物が入らないように、クリーンルーム内の圧力が外圧よりも高い状態である「陽圧」に保ちます。空気が薄くならないように、HEPAフィルターを通して取り入れた空気と同量の空気を排出します。
クリーンルーム導入のメリット・デメリット
クリーンルームを導入することには、どのようなメリット・デメリットがあるでしょうか。
メリット
クリーンルームを導入することのメリットは主に2つあります。
企業・品質に対する安心感が高まる
クリーンルームで製品をつくることで、不純物や汚れのない品質を期待でき、消費者の安心感を得られます。また、クリーンルームで作業をしている会社と言うこと自体が、安心感につながり、高い宣伝効果も得られます。
不良品が少なくなる
極めて清浄度の高い空間で作業を行うため、異物混入が減り、不良品が少なくなるというメリットがあります。また、バイオロジカルクリーンルームならば微生物もコントロールしているため、醸造や培養がスムーズに進みやすくなります。
デメリット
高い清浄度と安心感につながるクリーンルームですが、導入にはデメリットもあります。主なデメリットを2つ紹介します。
大きな初期投資費用が必要
クリーンルームは導入費が高額かつまとまったスペースが必要です。クリーンルームとして使える適切な空間がない場合には、建築費もかかりさらに高額になります。
ランニングコストがかかる
クリーンルームでは基本的に24時間体制で対流を起こしています。そのため、電気代などのランニングコストが発生します。
まとめ
クリーンルームを導入すれば、ミクロの単位で異物をコントロールできます。それにより、製品の質の向上や消費者の安心感を獲得することができるでしょう。初期費用とランニングコストはかかりますが、費用対効果を計算し、導入を検討してみましょう。