産業用ロボットSIer 300社掲載

2021.03.31

アーク溶接とは?下位分類や導入方法についても解説!

種類が豊富で現場に合わせて導入しやすいアーク溶接。本記事ではアーク溶接の原理や種類、メリットやデメリットについて一通り解説します。

アーク溶接を自動化できる産業用ロボットについても紹介するので、FA(工場の自動化)を模索している方はぜひ検討材料にしてみてください。

この記事の結論

・アーク溶接とはアーク放電という放電現象を利用することで金属同士を接合する方法
・アーク溶接の種類は電極の性質とシールドガスの種類により細分化されている
・アーク溶接のメリットは小型製品の溶接にも対応可能で比較的低コスト、また種類が豊富であること
・アーク溶接のデメリットは安全面への配慮が必要で消耗品が出ること

アーク溶接は「融接」の代表的手法

溶接とは金属同士を接合するための加工技術ですが、その方法は一般的に次の3つに大別されます。

  • 母材自体を溶解させることで接合する「融接」
  • 母材とは別の材料を溶かし込んで接合する「ろう接」
  • 加圧と熱を使って接合する「圧接」

このうち、本記事では「融接」の代表的手法である「アーク溶接」について解説します。

アーク溶接の原理

アーク溶接とは空気中のアーク放電という放電現象を利用して母材を溶解させることによって金属同士をつなぎ合わせる溶接方法です。

アーク溶接では電気を発生させるために溶接電極(溶接棒またはワイヤ)に電流を流し、電極を溶接したい金属部分に当てることによって母材から溶接電極へのアークを発生させ、熱の力で金属同士を接合します。下記の動画にあるように「アーク」と呼ばれる青色の強い光と摂氏5,000度〜20,000度近くの高熱を発するのが特徴です。

放電現象を利用するため溶接可能な金属は電気伝導率の高いものに限られますが、自動車、鉄道車両、航空機、建築物、建設機械など、幅広い産業で利用されています。

引用元:https://youtu.be/CA63kqidAos

アーク溶接の種類

アーク溶接は、溶接時に使用する溶接電極の特徴によっての次の2種類に大別されます。

  • 消耗電極式溶接
  • 非消耗電極式溶接

さらにシールドガス(溶接時に溶接面が直接空気に触れるのを防ぐために使うガス)の種類などによってさらに9種類に細分化されます。以下、消耗電極式溶接と非消耗電極式溶接の特徴についてそれぞれ詳しく見ていきましょう。

消耗電極式溶接

消耗電極式のアーク溶接はその名の通り、溶接時に電極自体も母材と一緒に溶解させてしまう手法です。

  • 被覆アーク溶接
  • 炭酸ガス溶接・MIG溶接・MAG溶接(ガスシールドアーク溶接)
  • サブマージアーク溶接
  • セルフシールドアーク溶接
  • スタッド溶接

被覆アーク溶接

アーク溶接では一般的に被覆アーク溶接では被覆剤を塗布済みの溶接棒を電極として使用します。すべて手作業で行われることから、別名「手溶接法」とも呼ばれます。様々な母材に対応できる手軽さもあり、従来は主流でしたが、近年は作業効率の良い自動溶接機なども登場してきたため、利用範囲は減少傾向にあります。

炭酸ガス溶接・MIG溶接・MAG溶接(ガスシールドアーク溶接)

アーク溶接時に金属が大気に触れて酸化するのを防ぐためにシールドガスを利用する方法は「ガスシールドアーク溶接」と呼ばれます。

ガスシールドアーク溶接はシールドガスに使用される気体の種類によって

  • 二酸化炭素を使用する「炭酸ガスアーク溶接」
  • アルゴンやヘリウムなどを使用する「MIG溶接」
  • アルゴンと二酸化炭素の混合ガスを使用する「MAG溶接」

に細分化されます。

このうち日本の製造現場では主流となっているのは比較的低コストでできる炭酸ガスアーク溶接です。ガスシールドアーク溶接ではさまざまな種類のガスを使用するため、ガス中毒への対策が必要です。

サブマージアーク溶接

サブマージアーク溶接は、上述の「被覆アーク溶接」の発展形とも言える手法です。被覆アーク溶接では被覆剤(フラックス)と電極(溶接棒)が一体化している一方で、サブマージアーク溶接時には粉状の被覆剤の中にワイヤ状の電極を別途挿入します。

電極と被覆剤を分離しておくことで自動溶接できる点がメリットです。

セルフシールドアーク溶接

セルフシールドアーク溶接(別名ノーガスアーク溶接・ノンガスシールドアーク溶接)はシールドガスを使用しない溶接方法です。シールドガスが要らず手軽にできる反面、スパッタやヒュームなどの有害物質が多く発生します。

スタッド溶接

スタッド溶接は、溶接棒や溶接ワイヤの代わりに「スタッド」と呼ばれるピンを電極として使用します。スタッドを専用のガンに取り付け、母材に押し当てた状態で電流を流すことでアークを発生させます。

非消耗電極式溶接

非消耗電極式のアーク溶接では溶接時に電極が溶けてしまうことがありません。そのため同じ電極を繰り返し使用することができます。

TIG溶接

TIG(Tungsten Inert Gas)溶接では、熱に強く溶けにくいタングステン電極を使用します。タングステン電極と母材との間にアークを発生させ、アーク部をアルゴンやヘリウムなどの不活性ガスでシールドしながら溶接します。

プラズマアーク溶接

プラズマアーク溶接では不活性ガス(アルゴンやヘリウムなど)を使用します。不活性ガス中の原子や分子を電子やイオンに解離した状態(プラズマガス)として噴出することによってアークを発生させます。

アーク溶接のメリット・デメリット

アーク溶接には主に3つのメリットと2つのデメリットがあります。

メリット

  • 小型製品の溶接にも対応
  • 比較的低コスト
  • 種類が豊富

デメリット

  • 安全面への配慮が必要
  • 消耗品が出る

詳しく見ていきましょう。

メリット

小型製品の溶接にも対応

スポット溶接などの圧接では溶接面積が小さい母材は溶接しにくいのが難点ですが、アーク溶接では母材が小さくても、ピンポイントで溶接することが可能です。そのため、小さな部品などの溶接にも適しています。

比較的低コスト

アーク溶接で使用する機材は比較的低コストで揃えることが可能です。そのため複数台のアーク溶接機を購入し工場内で同時稼働させ、作業の効率化を図るといった施策も可能です。

種類が豊富

アーク溶接は種類が豊富なため、扱う製品や工場環境に合わせて適切な溶接を選ぶことができます。中にはシールドガスや溶接棒などを使わない方法もあるため、ガス関連の事故を減らしたり消耗品のコストを抑えられるというメリットがあります。

デメリット

安全面への配慮が必要

アーク溶接の現場では火花や強い青色の光が発せられます。そのため、身体を保護するための防護服やグローブ、目を保護するための遮光マスクといった安全対策が必要不可欠です。

消耗品が出る

消耗電極式のアーク溶接で使用される溶加材(溶接棒や溶接ワイヤなど)は消耗品であるため、定期的に買い足す必要があります。そのためのコストが経費として定期的に必要になることは想定しておきましょう。

アーク溶接の準備と手順

準備

アーク溶接時には、主に下記の器具・材料を準備する必要があります。

  • アーク溶接機
  • 溶接棒
  • 遮光マスク
  • 手袋
  • 防護服(エプロンなど)
  • ハンマー(溶接後に金属塵を叩き落とすために使用)

手順

ここではアーク溶接の基本形である被覆アーク溶接を例に基本的な手順を説明します。

まず電極(溶接棒)を持ち電流を流します。次に、溶接棒を溶接したい金属部分に近づけます。電流の強さを調整するために溶接棒と金属の間の絶妙な距離感を保つことがコツです。

これを数回繰り返しているうちにボーッという音と青い光とともに金属に電流が流れます。最後に、電流によって発生した熱の力で金属を溶かし接着します。

アーク溶接がうまくいったかどうかは「溶接痕」をチェックしましょう。溶接箇所に貝殻のような模様の溶接痕が出ていれば成功です。

アーク溶接をする際の注意点

アーク溶接をする際の3つの注意点について解説します。

  • 溶接方法に合わせて最適な溶接機を選ぶ
  • 遮光マスクなどの安全対策が必要
  • 消耗品を備蓄しておく

溶接方法に合わせて最適な溶接機を選ぶ

上述の通りアーク溶接にはさまざまな方法があります。安全性を保ちながら作業を効率化するためには、自社で使う溶接方法に合った溶接機を選ぶことが重要です。

またアーク溶接機のメンテナンス方法もアーク溶接の種類によって異なります。どの溶接機であっても、電源、ケーブル、ワイヤー送給装置、溶接トーチのメンテナンスは必要最低限怠らないようにしましょう。こまめなメンテナンスを実施することによって、より安全で高品質のアーク溶接を行うことが可能になります。

遮光マスクなどの安全対策が必要

アーク溶接時には火花や強い光が発せられます。火花や光から目を保護するために、作業開始前に遮光マスクを必ず装着しましょう。

消耗品を備蓄しておく

デメリットの箇所でも解説した通り、消耗電極式のアーク溶接で使用される溶加材は消耗品であるため、定期的に買い足す必要があります。

溶接作業中に消耗品がなくなってしまったとしても、安全上の理由からすぐに中断することができない場合もあるため、消耗品の在庫数は日頃から確認し、アーク溶接時にすぐに取り出せるようにしておきましょう。

アーク溶接を効率化するには産業用ロボットを導入する

昨今の世界情勢や少子高齢化などにより、日本のものづくり現場を取り巻く状況は一段と厳しさを増しています。特に溶接は熟練工の経験や技術力を必要とする場合も多いため、作業員の高齢化に伴う人手不足に悩んでいる現場も多でしょう。

  • 「限られた人数の中で生産性を上げたい」
  • 「従業員の負担を軽減させたい」
  • 「作業員の高齢化による技術継承問題を解消したい」

もしもあなたの会社がこのような悩みを抱えているとしたら、産業用ロボットの導入を検討してみてはいかがでしょうか?産業用ロボットを導入することで以下のようなメリットが期待できます。

  • 人件費が削減できる
  • 人手不足を解消できる
  • 生産性が向上する
  • 危険な作業を人がしなくて済む
  • 作業の質が担保される

まとめ

本記事ではアーク溶接の原理や下位分類、メリットやデメリット、手順や注意点などについて一通り解説しました。

アーク溶接の種類は電極の性質やシールドガスの種類などにより細分化されているので、自社の製品や工場環境に合わせて柔軟に手法を選ぶことができます。

ただしアーク溶接時には火花や強い光が生じるため安全面への配慮も怠らないようにしましょう。

最近ではアーク溶接を自動化できる産業用ロボットも実用化されつつあるので、FA(工場の自動化)を模索している方はぜひ検討材料にしてみてください。

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