目次
衛生管理が必要不可欠な食品製造や医薬品製造、ホコリの付着が命取りになる精密機器製造などの分野において活用されているクリーンロボット。
この記事では、クリーンロボットの特徴、用途、活用事例について解説します。
・クリーンロボットとはクリーンルームでの作業をおこなう産業用ロボットのこと
・クリーンロボットは使用されるクリーンルームの環境に応じて大気ロボットと真空ロボットに分類される
・クリーンロボット導入時には防塵対策・発ガス対策・潤滑油対策・放熱対策といった特別な対策が必要
クリーンロボットとは
クリーンロボット(または「クリーンルームロボット」)とは、生産ラインの中でも主に気密性や防塵性に優れたクリーンルーム内での作業を担当するロボットです。
クリーンロボットはその性質上、
- 電子部品(半導体・ガラス基板など)
- 食品
- 医療機器(衛生用品を含む)
といった分野で主に活用されています。特に、半導体製造など真空密閉空間で作業をしなければならない現場においてはクリーンロボットが真価を発揮します。
従来、クリーンルーム内でのロボットの使用には技術的な課題があり実用化が遅れていました。
しかし後述するようなクリーンルームに特化したロボットが登場したことによって、食品・医薬品・半導体などの分野でも積極的にロボットが導入されるようになりました。
クリーンロボットの種類
クリーンロボットは作業環境に応じて次の2種類に大別されます。
- 大気ロボット
- 真空ロボット
一つずつ見ていきましょう。
大気ロボット
クリーンロボットの中でも空気のある場所で作業をおこなうものは大気ロボットと呼ばれます。電子部品などの製造時には防塵対策をする必要がありますが、作業員自体が発塵源になりかねません。作業員に代わってクリーンロボットが作業をすることで、ホコリを防ぐことができます。
真空ロボット
無空気中で作業を行うものは真空ロボットと呼ばれます。主に、半導体製造において必要な「シリコンウエハ」という部品の処理工程において真空ロボットが活躍します。
シリコンウエハの処理工程では化学反応を利用するため、材料となる物質以外の物質が混入すると、目的とする物質の生成が妨げられてしまうためです。
クリーンロボットの特徴
クリーンロボットには他の産業用ロボットとは異なる4つの特徴があります。
- ①防塵対策がされている
- ②発ガス対策がされている
- ③潤滑油の蒸発対策がされている
- ④放熱対策がされている
作業環境別に見ると、大気ロボットには①の特徴が当てはまり、真空ロボットは①〜④のすべての特徴が当てはまります。詳しく見ていきましょう。
①防塵対策がされている
ロボット内での防塵
クリーンロボットは部品の磨耗によるホコリの発生を最小限に抑える作りになっているのが特徴です。
たとえばアーム型の多関節ロボットの関節部など、すり減りやすい箇所にテフロンなどの耐摩擦性素材を採用するといった防塵対策が施されています。
ロボット外への防塵
クリーンロボットの駆動部は発塵を防ぐためにカバーで覆われており、気密性が最大限に保たれています。
また回転部と固定部との境に特殊なシーリング材を使用することで、稼働中にホコリが外へ漏れないような構造になっています。
②発ガス対策がされている
真空空間では圧力が低いため材料中に含まれる成分がガスとなって放出され真空度を下げてしまう恐れがあります。
そのため真空ロボットはアルミニウムやステンレスといった発ガスが少ない材質で製造されます。
③潤滑油の蒸発対策がされている
産業用ロボットを動かすためには潤滑油が必要ですが、真空ロボットは特に低気圧による油の蒸発を厳密に防ぐ設計になっている点が特徴です。
また出来るだけ蒸発や飛散の少ないグリース(潤滑剤)を使用し余分なグリースを拭き取るよう徹底する必要があります。
④放熱対策がされている
真空のクリーンルーム内は無空気であるため、発熱源があると熱が逃げにくくロボットが高温になる可能性があります。
そのため発熱部には熱伝導率の良いアルミニウムなどの素材が使われます。
クリーンロボットの活用事例
上述のようにクリーンロボットは主に食品・医薬品・精密機器の製造分野で活用されています。ここではクリーンロボットの活用事例を3つ紹介します。
イベリコ豚を使った加工肉製品工場
イベリコ豚を使った加工肉製品工場の包装ラインに人間と協働作業ができるクリーンロボットを導入しました。
その結果、製品の品質や作業員の労働環境を保ちながら生産性を回復させることに成功しました。
事例の引用元:https://www.universal-robots.com/ja/%E4%BA%8B%E4%BE%8B%E3%81%AE%E7%B4%B9%E4%BB%8B/covap/
シソの葉の自動選別
クリーンルームにおけるシソの葉の選別作業にパラレルリンク型のクリーンロボットを導入しました。
クリーンロボットとロボットビジョンシステムを活用することで、従来は手作業で長時間かけておこなっていたシソの葉の分別や検品などを自動化・効率化することができました。
事例の引用元:https://www.keyence.co.jp/ss/products/vision/fa-robot/rv-example/clean-room.jsp
プリント基板のハンドリング
高精度の防塵対策を必要とするプリント基板のハンドリング工程に、多関節のクリーンロボットを導入しました。クリーンルーム内の清浄度を保つためにクリーンロボットは完全にカプセル化された状態で稼働。
導入の結果、ハンドリングのサイクルタイムが大幅に削減され、従来の生産ラインよりも生産性が格段に改善されました。
クリーンロボットを取り扱っているメーカー
ここでは、クリーンロボットを取り扱っているメーカーを6つ紹介します。
- 安川電機
- メイキコウ
- イプロス
- ヤマハ
- ダイヘン
- 川崎重工業
一つずつ見ていきましょう。
安川電機
世界の産業ロボット業界を牽引する大手メーカー・株式会社安川電機(本社:福岡県北九州市)が手がけるクリーンロボットは液晶ガラスやパネルといった精密機器搬送に強いのが特徴です。
形状としては自由度の高い動きが可能な垂直多関節ロボット(MOTOMAN-MCLシリーズ)と旋回半径が小さく小回りが効くスカラロボット(MOTOMAN-MFL、MFSシリーズ)の2種類が発表されています。(2021年2月現在)
メイキコウ
株式会社メイキコウ(本社:愛知県豊明市)はクリーンルーム内での作業を含むマテリアルハンドリング機器全般に強いメーカーです。
液晶パネルや有機ELのガラスの搬送・移載に強い「第七世代液晶基板対応クリーンロボット」に代表されるオリジナルロボットの開発はもちろんのこと、液晶基板用のクリーンローダ・アンローダといったクリーンルーム内でのハンドリングに特化した装置についても精通している点が特徴です。
KUKA
KUKA(本社:ドイツ・アウクスブルク)が手がけるクリーンロボットは特殊塗装と特殊研磨を施すことで一般的な産業ロボット以上に厳密な防塵対策がされているのが特徴です。
中でも「クリーンルーム KR210CR」は空気清浄度クラス3~6(ISO14644-1に準拠)を実現しながらも可搬重量5kg~500kgまでをカバーすることができる高機能クリーンロボットとして知られます。
ヤマハ発動機
ヤマハ発動機株式会社(本社:静岡県磐田市)は電子部品、食品、医療機器関連作業に最適な高クリーン度と機能性を両立させたクリーンロボットを手がけています。
低価格が魅力の単軸ロボット「TRANSERVOシリーズ」のクリーンルーム対応モデルをはじめ、直交ロボット「XY-XCタイプ」、スカラロボット「YK-XCタイプ」など、様々なロボット形状に対応している点が特徴です。
ダイヘン
株式会社ダイヘン(本社:大阪府大阪市)はクリーンロボットの分野において20年以上の実績を持つメーカーです。
特に4軸円筒座標型の大気ロボット「UT-AFX/W4000 シリーズ」やアームのカスタマイズも可能な真空ロボット「UT-VFX3000NM シリーズ」など、半導体製造工程におけるウエハ搬送分野で高い評価を得ています。
川崎重工業
川崎重工業株式会社(本社:東京都港区)は主に半導体製造や製薬工程向けに高精度・高クリーン度の水平多関節型(スカラ型)のクリーンロボットを開発しています。
上下軸にテレスコピック機構を採用した「TTSシリーズ」など、独自の駆動機構によりクリーンルーム内での高精度・高剛性な動作を実現。またロボットの自動教示技術などソフト面の使い易さにも留意して開発されているのが特徴です。
まとめ
この記事では、クリーンロボットの特徴、種類、用途、活用事例などについて解説しました。
クリーンルームという特殊な環境で作業をするクリーンロボットには防塵対策・発ガス対策・潤滑油対策・放熱対策など一般的な産業用ロボットにはない特別な対策が施されています。
自社のクリーンルームにもロボットを導入してみたいと思われた方は、この記事で紹介したクリーンロボットの特徴やおすすめメーカーなどをぜひ参考にしてみてください。