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映画や漫画に登場するアンドロイドロボットは、どの程度実現性があるのでしょうか。本記事では、アンドロイドの定義の説明から、最新のアンドロイド開発の状況を解説します。ロボットにご興味のある方は、ぜひご覧ください。
ロボットとは
アンドロイドとは何かを説明する前に、より広義のロボットやそれに含まれる用語を、下の表を使って分類しました。
ロボットの定義
ロボットの定義は、業界や時代によって異なります。例えば1960年代の一般的なロボットの定義は、人や動物の形に似た機械でした。
ロボット学会などでの学術的な定義は、「センサ、知能・制御系、駆動系の3つの要素技術を有する、知能化した機械システム」としています。
参考文献(ロボット白書2014:https://www.nedo.go.jp/content/100563895.pdf)
したがって、iRobot社のルンバは人に似ていなくてもロボットですが、ガンダムをはじめとするアニメなどで主人公が操縦する機械はロボットとは認められません。
FA業界では、外観が生物に似ていなくても、人間の作業を肩代わりしてくれる機械がロボットです。産業用ロボットのほとんどは自律型ではなく、ティーチングされた運動を連続して行なってますが、誰もがこれをロボットと呼んでいます。
近年ではAIの発展にともない、チャットボットなど自律的な動きをするソフトウェアもロボットと呼ばれる場合があります。
ヒューマノイドの定義
人間に外観を似せたロボットを、ヒューマノイド(ロボット)と呼びます。開発目的は人間とのコミュニケーションです。日本では2000年代にホンダのAsimoをはじめとした高度な2足歩行を行うヒューマノイドが次々と発表されました。
アンドロイドとは
アンドロイドの定義
前章のヒューマノイドの中でも、人間に極めて近い外観をもつものをアンドロイドと呼びます。外観が人に近いかどうかは基準が曖昧なため、厳密な定義は困難です。
日本では大阪大学の石黒浩教授が開発したロボットが有名で、タレントや過去の偉人のアンドロイドが話す姿がテレビで放映されて、お茶の間を賑わせました。
サイボーグとロボットの違い
サイボーグは、人体の一部を機械に置き換えてその機能を補助したり強化した人間と定義されます。ベースが人間なので、サイボーグはロボットに含まれませんが、人体のほとんどの機能が置き換えられた場合、そのサイボーグをロボットと定義される場合もあるかもしれません。
大分類 | ロボット | 非ロボット | |||
外観形状 | 人型(ヒューマノイドロボット) | 非人間型 | 人型 | ||
呼称 | アンドロイド | 非アンドロイド | その他のロボット | サイボーグ | |
主目的 | コミュニケーション | コミュニケーション | コミュニケーション | 人間の支援 | 人間の強化 |
具体化の例 | HIS変なホテルの受付ロボット | HondaのAsimoSoftBankのPepper | GrooveXのLOVOTユカイ工学のQooBo | 各社の産業用ロボット清掃・配膳ロボットドローン | ピーター・スコット-モーガン氏 |
メディアのキャラクター例 | ターミネーター鉄腕アトム | ベイマックス | ドラえもん | WALL・E | ロボコップ仮面ライダー |
発展状況 | 受付ロボット導入が始まった | 量産化がアナウンスされ始めた | 商品化が開始され始めた | 普及が進む安定期 | 現実性のある研究が進んでいる啓蒙期 |
最新アンドロイドロボット3選
ここでは近年発表されたアンドロイドのうち、国際的に話題になったものをご紹介します。
Ibuki (石黒共生ヒューマンロボットインタラクションプロジェクト)
日本のアンドロイド研究の第一人者は、大阪大学の石黒浩教授です。彼は2000年代より人間に外観を似せたロボットを作りはじめ、インパクトのあるビジュアルはメディアでも取り上げられました。ただ作ることが目的ではなく、人間との関わりや人間そのものを知るのが目的だそうです。
参考文献:知るぽると
彼が主催するプロジェクト内で最近開発されたアンドロイドを紹介します。子供に似せた上半身と、移動用タイヤを持つ下半身で構成された、Ibukiというアンドロイドです。彼の今までのアンドロイドは、駆動方式が空圧で、外観はできる限り人間に似せていました。ところがIbukiは、顔以外は内部構造が見えて人間の外観に似せていない点と、駆動方式が電動である点が異なります。
Amica (Engineered Arts)
AmicaはイギリスのEngineered Arts社で開発されました。移動はできませんが、顔や腕の動きは驚くほどリアルです。モーションキャプチャした人間の動きの再現と、それを実現するための機構設計を行いました。AIが搭載されており、人間との会話も可能です。レンタルや販売も行なっており、フルオプションで7500万円との価格が提示されました。
Sophia(Hanson Robotics)
Sophiaは、香港のHanson Robotics社が開発しました。AIを搭載して会話が可能で、「人類を滅ぼす」と発言したり、サウジアラビアの市民権を得たりと、話題に事欠きません。展示会での露出も多く、意図的に社会にインパクトを与えようとしていると言われています。
アンドロイドロボットメーカー
現在のところ、10台100台単位でアンドロイドを量産しているニュースは聞きません。1体数千万円といわれる製作コストがネックになって、まだまだ量産して一般に拡販するレベルではありません。本章では国内のアンドロイド製作メーカーをご紹介します。
株式会社ココロ
ココロは、様々なキャラクターで有名な株式会社サンリオの子会社です。2000年代には石黒教授のアンドロイド製作を請け負っていました。アンドロイドの他、空気圧でリアルな動きをする恐竜などの模型が有名で、世界中の著名な博物館に展示されています。
株式会社エーラボ
2010年代以降の大阪大石黒教授のプロジェクトでアンドロイドを製作しているのがエーラボです。なかでもテレビ局のアナウンサーになったアンドロイド、アオイエリカが話題となりました。エーラボではアンドロイド製作だけでなく、オリックス・レンテックを通じてアンドロイドのレンタルも行なっています。料金は3日間で80万〜150万円とのことです。
参考文献(ニュースイッチ:https://newswitch.jp/p/6775)
アンドロイドと社会
アンドロイドの目的は人とのコミュニケーションであり、高額な製作コストを捻出する上でも、制作機会は社会情勢に左右されます。興味深いことに、日本では15年周期でロボットブームが来ては沈静化し、なかなかアンドロイドが一般化して家庭に入ってくる状況には至りません。本章では、ロボットと社会の関わりの歴史を紹介します。
第1次ロボットブーム
1984年〜1991年に初めてのロボットブームが到来しました。きっかけは1984年に開催された、筑波科学万博です。会場では早稲田大学で開発された歩行ロボット、オルガン演奏ロボットが公開されました。子供向けのおもちゃもロボット一色となりましたが、バブル崩壊でブームは終わりました。
第2次ロボットブーム
2000年〜2007年に2番目のロボットブームが到来しました。本田技研工業株式会社が開発した子供くらいの大きさの2足歩行ロボットAsimoが人気となったのがきっかけです。SONYが販売した犬型ロボットのAIBOも話題になりましたが、リーマンショックでブームは終焉しました。人間に似ているがちょっと不気味なアンドロイドが製作され始めたのも、このころです。
現在の状況
現在日本ではブーム終焉を裏付けるようなニュースが続いています。一世を風靡したソフトバンクのPepperは量産停止がアナウンスされ、ソフトウェアの改良などで多額の赤字を生みました。Asimoもホンダ本社と日本科学未来館での一般公開を2023年3月で停止します。
日本はコミュニケーションロボット開発で世界に先行していましたが、前章で取り上げたように現在は欧米や中国のロボットの話題が目立ちます。
アンドロイドのようなハードウェア開発は、人件費に加え試作コストが多額にかかります。そのためか現在は、ChatGPTをはじめとするソフトウェア開発が先行している印象です。
今までの周期が繰り返される場合、次のロボットブーム開始は2030年ごろとなります。その前に開催される2025年の大阪万博では、大阪大学の石黒教授がプロデューサーを務めます。彼は万博で新たなロボットを発表するかもしれません。
これから注目すべきロボット関連企業
本章では国内外の注目すべきロボット関連企業をご紹介します。
Boston Dynamics
海外では、コミュニケーションだけでなく軍事目的でロボットを開発する企業もあります。
Boston Dynamicsはアメリカのロボット企業で、アメリカ国防省の機関のひとつであるDARPA(国防高等研究計画局)と共同で4足歩行ロボットSpotや2足歩行ロボットAtlasを開発しました。Googleに買収され一躍有名となりましたが、その後ソフトバンク、韓国の現代自動車グループへと筆頭株主が変わります。最近になってロボット技術を軍事転用しないと宣言しました。
TESLA
TESLAはアメリカの有名なEVメーカーですが、2022年末に自律型2足歩行ロボットOptimusの試作機を公開しました。最終的には約290万円での量産化を計画しています。目新しい技術も搭載されておらず、歩行も不安定で期待外れとの評価が多かったものの、開発力や資金力は豊富なので量産化が実現するかもしれません。
UBTECH
中国のロボット企業UBTECHは、2019年に2足歩行ロボットの市販化を表明しました。介護、清掃、警備から学習目的のブロック型歩行ロボットまで、広範囲の業界向けにロボットを製造しています。2023年1月には香港で上場申請し、資金を得てさらに開発スピード向上が期待されるところです。
株式会社ロボカル
社会的なロボットへの興味は浮き沈みがありますが、製造業界では自動化推進のためロボットや自動装置のニーズは上昇傾向が続いています。ロボカルは、ロボットメーカーやシステムインテグレーターとユーザーをマッチングするだけでなく、導入支援を行いコスト削減に取り組んでいる会社です。
まとめ
アンドロイドは、人とのコミュニケーションや人間の理解を目的に開発された、人間に外観を似せたロボットです。その開発は日本の企業や研究者が牽引してきましたが、最近は海外勢の躍進が目立ちます。
歩くヒューマノイドロボットは量産化のニュースがあります。しかし歩行するアンドロイドは量産どころか試作の発表すらされていません。近い未来に一般家庭でアンドロイドと一緒に生活するのは現実的ではありませんが、研究が進めば可能性はあります。