目次
ロボットハンドは、把持(はじ)ハンドと吸着ハンドの2つの種類があります。それぞれどのような特徴があるのか、また、どのようなシーンで利用されるのかについて解説します。
・ロボットハンドは把持ハンドと吸着ハンドの2種類
・把持ハンドは対象物をつかむ、吸着ハンドは対象物を吸着させるもの
・それぞれ特徴を活かして、溶接や搬送などに用いられている
ロボットハンドの種類
ロボットハンドには様々な種類がありますが、「どのように物を運ぶか」という点に注目すると「把持ハンド」と「吸着ハンド」の2種類に分けることができます。それぞれの概要を解説します。
- 把持ハンド
- 吸着ハンド
把持ハンド
対象物をつかむロボットハンドを「把持ハンド」と呼びます。指の本数やつかみ方に違いはありますが、つかむことができるロボットハンドは、すべて把持ハンドに分類します。
対象物の硬さや大きさによってフィンガー(指部分)の種類、圧力(把持力)などが変わります。
吸着ハンド
対象物を吸着するロボットハンドを「吸着ハンド」と呼びます。対象物を真空パッドが磁力で吸着させて移動させることができます。
把持ハンドとは異なり、フィンガーにかける圧力で対象物を捕える力をコントロールするのではなく、真空パッドに伝える電力、あるいは磁力によってコントロールします。
把持ハンドの特徴
対象物をつかむことができるロボットハンドは「把持ハンド」に分類できます。把持ハンドの特徴として主なものを3つ紹介します。
- 形状に関わらずつかむことができる
- さまざまな素材に対応できる
- 強くホールドできるので固定作業にも利用できる
形状に関わらずつかむことができる
指の形状や圧力を変えることで、薄いものから大きなもの、複雑な形状のものなどほとんど何でもつかむことができます。
液体などの一部のものは把持ハンドで直接つかむことができませんが、取っ手付きのバスケットなどに入れることでつかめないものでも運ぶことが可能になります。
さまざまな素材に対応できる
把持ハンドは、素材に関わらずある程度形が定まったもの、固形のものであればほとんどのものをつかむことができます。一方、吸着ハンドの場合は吸着できないものが多く、利用できる素材は限られます。
例えば真空パッドを利用した吸着ハンドの場合は、多孔質のものは真空にすることができないためつかむことができません。スポンジや発泡スチロールでできたものは、把持ハンドのほうが適しているでしょう。
また、磁力による吸着ハンドも、磁力に引き寄せられないものは吸着させることができません。例えば紙やアルミニウムなどでできたものは、吸着ハンドによる搬送は難しいでしょう。
把持ハンドの素材によっては、熱いものをそのままつかめないことがあります。そのような場合はフィンガー、あるいは把持ハンド全体に防熱手袋をかぶせることで対応できることもあります。
強くホールドできるので固定作業にも利用できる
把持ハンドの圧力を高くすると、強いホールド力を発揮します。溶接作業や切削作業など、しっかりと固定することが必要な場面でも利用することができるでしょう。
溶接も切削も人間には危険な作業なので、把持ハンドを取り付けられるロボットに任せるほうが良いと考えられます。
把持ハンドなら金属片が飛び散る環境や高温・高湿の環境下でも、つかんだ対象物を離さずに固定するので、効率よく作業が進められると考えられるでしょう。
吸着ハンドの特徴
吸着させて対象物を固定するロボットハンドは、吸着方法に関わらず「吸着ハンド」に分類します。主に次の3つの特徴があります。
- 固定する・離すのスピードが速い
- 材質によっては使用できないものがある
- 定期的にパッドの交換が必要
固定する・離すのスピードが速い
把持ハンドは対象物をつかむ動き、離す動きにある程度の時間がかかります。対象物が固定位置にないときは一度の動きでつかめない可能性もあるので、さらに時間がかかるでしょう。
一方、真空状態にして、あるいは磁力を使うことで吸着して対象物をホールドする吸着ハンドでは、電力を入れる・切るだけで対象物を固定したり離したりできます。
そのため、つかむ動きと離す動きにほとんど時間がかからず、スピーディな対応が求められる工場での流れ作業に向いています。
また、対象物が固定位置になくてもホールドできるという点も吸着ハンドの特徴です。
真空パッドあるいは磁力パッドで対象物を引き寄せることができるため、少々位置がずれていてもつかむことができます。位置のずれが予想される場面でも、吸着ハンドが活躍するでしょう。
材質によっては使用できないものがある
吸着ハンドの真空パッドで吸着させる場合は、多孔質のものは空気が漏れてしまうためホールドできません。例えばスポンジや紙、発泡スチロールなどの多数の穴が開いている構造のものは、真空パッドで搬送することには向いていないでしょう。
磁力パッドで吸着させる場合は、鉄系の素材以外、例えば非鉄金属などには使えません。アルミニウムや紙、木製加工物なども、磁力パッドで吸着させて搬送することはできないでしょう。
なお、真空パッドでホールドできない多孔質のスチールスポンジ(金属製の洗浄に用いることがある)や金網などは、磁力パッドを使うことでホールドできます。素材や性質によって、パッドの種類を選択するようにしましょう。
定期的にパッドの交換が必要
エアを使った真空パッドの吸着ハンドは、フィルターの目詰まりやパッドの摩耗によって徐々に吸着力が衰えます。また、磁力を利用した磁力パッドの吸着ハンドも、経年劣化で磁力が弱くなってしまいます。
いずれも定期的にパッドの交換が必要なため、半永久的に使用できる把持ハンドと比べるとメンテナンス費用がかかるといえるでしょう。
ロボットハンドの利用シーン
ロボットハンドが利用される場面は多岐にわたります。把持ハンドと吸着ハンドに分けて、どのようなシーンで利用されているのか解説します。
把持ハンド:溶接作業・切削加工作業
把持ハンドはホールド力が高いため、溶接や切削などの場面において対象物を固定する作業に向いています。様々なものを加工する現場では、把持ハンドを見ることが多いでしょう。
例えば自動車工場や金属加工工場などでは、把持ハンドを利用してオートメーション化されていることがあります。
吸着ハンド:搬送作業
スピーディに対象物を固定して、指定の場所で解放することができる吸着ハンドは、スピードが求められる流れ作業や搬送作業に向いています。文房具や食料品、あるいはおもちゃなどの製造工場では、吸着ハンドを見ることが多いでしょう。
なお、吸着できない製品に対しては、ある程度の大きさの塊(パレット状)などにしてから金属プレートを上部に取り付け、磁力パッドを用いて搬送することがあります。
まとめ
ロボットハンドには、対象物をつかむ把持ハンドと、対象物を吸着させる吸着ハンドの2つの種類があります。
把持ハンドは対象物が固形であるなら素材や形状を問わず利用でき、また、ホールド力が高いので溶接や切削加工の場面で用いられ、吸着ハンドはつかむ・離すがスピーディに行えるので流れ作業や搬送作業の場面で用いられることが多いです。
把持ハンドと吸着ハンドの特徴を理解し、適したタイプのロボットハンドを導入するようにしましょう。