目次
ロボットアームの動きを制御するのは、各軸に搭載されたモーターです。モーターはどのように働いてアームの動きを制御しているのか、アームの種別ごとに解説します。また、アームを動かすエネルギーの種類や特徴についても紹介します。
・ロボットアームを制御する構造は、アームの種類によって異なる
・ロボットアームの滑らかな動きは、減速機やアクチュエータ、エンコード、伝導機構により制御されている
・ロボットアームの制御機能は、ロボットの精度や作業処理能力などによっても左右される
ロボットアームを制御する構造
ロボットアームを制御する構造は、アームの種類によっても異なります。アームの種類ごとに解説します。
垂直多関節ロボットのアーム
産業用ロボットのアームは6軸機構が主流です。ロボットハンドやリンクはサーボモーターを通して回転する軸で直列に繋がっています。6軸の垂直多関節ロボットのアームは、先端部(ハンド)から遠い順に1軸、2軸とすると以下の構造が成り立ちます。
- 1軸:アーム土台の回転運動
- 2軸:アーム全体の上下運動
- 3軸:アームの関節部分の曲げ伸ばし運動
- 4軸:ハンドとの接合部分の回転運動
- 5軸:ハンドとの接合部分の曲げ伸ばし運動
- 6軸:ハンド先端部の回転運動
スカラロボットのアーム
スカラロボットのアームは、軸とリンクはすべて水平方向に動作します。一方、先端部のみ垂直方向に動き、ワークに対して作業を行います。スカラロボットは上下方向には剛性が高く、水平方向にはしなやかな動きが可能という特徴があります。
パラレルロボットのアーム
パラレルロボットのアームは、リンクと軸が並列に複数配置した構造となっています。リンクと軸の組み合わせにより、多様な動作が可能になります。また、並列なリンクを通して、複数のサーボモーターの出力を1点に集中することもできるので、少ない機動力で作業を行えるという特徴もあります。
直交ロボットのアーム
直交ロボットのアームは、直交するスライド軸を組み合わせた構造になっています。シンプルな構造で、動きを予想しやすい点も特徴です。リンクがスライド軸上を動くことから、ガントリーロボットと呼ばれることもあります。
ロボットアームの多彩な動きを制御する4つの要素
ロボットアームの滑らかな動きは、以下の4つの要素によって制御されています。それぞれの役割や動きを解説します。
- アクチュエータ
- 減速機
- エンコーダ
- 伝導機構
アクチュエータ
アクチュエータはロボットの関節を構成している要素です。アクチュエータがあることで、ロボットはアームを上下に動かしたり、回転させたりすることができます。例えばモーターもアクチュエータのひとつです。
産業用ロボットには、サーボモーターと呼ばれる位置制御や速度制御に対応した高機能のアクチュエータが搭載されます。
減速機
減速機は、アクチュエータの力を増幅するための装置です。モーター単体では出せる力に限りがありますが、減速機と組み合わせることで力を増大し、さまざまな作業に活用できるようになります。通常はアクチュエータの1つに対して減速機1つがペアになっています。
エンコーダ
エンコーダは、アクチュエータの回転軸の位置や角度を検出するための装置です。エンコーダがあることで、ロボットの動きの量や方向を認識することができます。
一般的な光学式エンコーダでは、アクチュエータの回転軸に円板が取り付けられていて、発光ダイオードや光の強さを判別するフォトダイオードなどが配置されています。
伝導機構
伝導機構とは、アクチュエータや減速機を通して得た力をアームに伝える部分です。伝導機構があることで、力の向きや大きさを変換することが可能になります。
ロボットアームを制御するエネルギー
ロボットアームの制御機構は、以下のいずれかからエネルギーを得て作用しています。それぞれのエネルギーの特徴を紹介します。
- 電気エネルギー
- 油圧エネルギー
- 空圧エネルギー
電気エネルギー
電気エネルギーは、アクチュエータにより駆動するエネルギーです。伝達速度が速く、操作によって細かく力の大きさを変化できるという特徴があります。また、高精度の位置決めが可能で、速度制御にも対応できるというメリットがあります。
油圧エネルギー
油圧エネルギーは、大きな力を出しやすい、外部からの衝撃に強いといった特徴があります。油圧とは、密閉された液体の一部に加わった圧力が液体全体に等しく伝わる原理を活用したエネルギーで、元となる力は小さくても大きな力を必要とする作業に対応することができます。
そのため、工作機械を始めとする多くの工場用機器に使用されています。ただし、電気エネルギーと比べると伝達速度が遅い点に注意が必要です。
空圧エネルギー
空圧エネルギーは、油圧と同様流体の力を応用したエネルギーです。油圧と比べて低い圧力で使用されるので、安全に利用できるというメリットがあります。
油圧が高負荷かつ高圧で作動するのに対し、空圧は低負荷かつ低圧で作動するため火災などが引き起こされるリスクも少ないです。また、価格が安価で扱いが簡単、配管作業が簡便な点も特徴です。しかし、油圧エネルギーと同様、伝達速度がやや遅いのでスピーディな動きに対しては電気エネルギーが向いています。
ロボットアームの制御機能を左右する要素
ロボット導入による製造効率の向上は、ロボットの性能に左右されます。中でも、対象物にアクセスするロボットアームの性能は、ロボットの導入効果に大きな影響を与えます。ロボットアームの性能に影響する重要な5つのポイントを説明します。
- 精度
- 周辺機器や作業スタッフとの関係
- 作業処理能力
- 安全性
- 保守性
精度
ロボットの精度には、「反復位置決め精度」と「絶対位置決め精度」の2つの種類があります。反復位置決め精度とはロボットが動作する軌跡を設定する精度のことで、一方、絶対位置決め精度とはロボットの移動量とプログラムによる指示が一致しているかを指す精度のことです。予想した作業を的確に行うためにも、ロボットアームの精度は重要な要素です。
周辺機器や作業スタッフとの関係
ロボットアームは、位置決め装置や整列器、カメラなど多くの周辺機器の中の中心的な位置で動作しています。そのため、周辺機器との親和性が低いと、作業そのものがスムーズに行えなくなるというデメリットがあります。協働ロボットのように周辺機器だけでなく人との親和性も高いものもあるので、導入する際にはチェックしてみましょう。
作業処理能力
ロボットアームがあることで、作業を短時間に進行し、なおかつ処理量を増やすことができます。特定のロボットアームの処理量と、前後の工程の処理量のバランスが取れているかも確認しておきましょう。
安全性
ロボットアームは安全への配慮を怠ると、大きな事故を引き起こすリスクがあります。作業員が作業スペースに入ったときは、ロボットの動作を減速または停止させる必要があるので、セーフティースキャナなどの安全設備とリンクできるのかもチェックしておきましょう。
保守性
ロボットアームは常に動作をしているため、大きな負荷がかかっています。そのため、他のパーツと比べても部品の劣化や消耗が激しく、こまめにメンテナンスすることが必要です。
ロボットアームの軸部分に異音が発生していないか日常的に点検すること、また、一定期間ごと、所定稼動時間ごとに定期的な点検を行うことが必要と言えるでしょう。また、寿命がわかっている部品に関しては、作業が停止しているときに交換するといった予防的な点検が必要です。
ロボットアームを制御するプログラム
ロボットアームはプログラムによって制御されています。プログラミングで使用されるSLIM言語やティーチング時に義務付けられている資格についても紹介します。
産業用ロボットのオフラインティーチングでプログラミングが必要
産業用ロボットに作業内容を教えるために実施するロボットティーチングの種類は次の4パターンに大別されます。
- コンピュータやティーチングボックス上で行う「オフラインティーチング」
- ロボット実機を操作しながら行う「オンラインティーチング」
- 作業者がロボット本体を直接動かしながら行う「ダイレクトティーチング」
- AIの自己学習機能を利用する「ティーチレス」
このうちプログラミングが必要になるのは「オフラインティーチング」です。
プログラミングを使用したオフラインティーチングの種類
オフラインティーチングにおけるプログラミング方法は4つの種類に分類できます。
- テキスト型
- シミュレータ型
- エミュレータ型
- 自動ティーチング型
詳しく見ていきましょう。
テキスト型
テキスト型とはテキストエディタ上でプログラムを直接書いていくという最もシンプルな方法です。同一形状物の搬送など比較的単純な動きをティーチングする場合に活用されます。
シミュレータ型
シミュレータ型とはコンピュータ上でロボット動作のシミュレーションをしながらプログラミングをしていく方法です。ロボット言語のコンパイラ(互換性のある言語形式への変換)を実行することで、異なるメーカーのロボットに共通のプログラムを適用することも可能です。
エミュレータ型
基本的にはシミュレータ型に似ていますが、エミュレータ型のプログラミングではコンパイラ不要でロボット言語を直接実行できる点がメリットです。
またエミュレータ型では疑似環境でロボット実機の動作検証をするため、プログラムの精度が上がります。何かとメリットが多いティーチング方法であるため、既存ロボットに多数採用されています。
自動ティーチング型
自動ティーチング型とはコンピュータのソフトウェアを使って、設計用のCADデータから動作プログラムを自動生成する方法です。自動ティーチング型は技術的に難易度が高いため、実際の現場ではあまり導入が進んでいないようです。
産業用ロボットのプログラミングの命令の種類
ここでは、産業用ロボットのプログラミングで用いられる主な命令(処理)について紹介します。
- 移動命令
- 速度命令
- 入出力命令
- 繰り返し処理命令
- 分岐・ジャンプ命令
- 演算命令
- その他
移動命令
移動命令とはロボットを指定した位置へ移動させる命令です。主に、
- 直線補間(始点と終点の2点を指定しておき、始点と終点を結ぶ直線上を動く動作)
- 円弧補間(中心位置、回転方向、終点の3点を指定しておき、コンパスの要領で円弧を描くように周回する動作)
といった動きを指定することが可能です。
速度命令
ロボットが移動する速度に関する命令です。分速(mm/分)や倍速(%)、加減速時間を指定する命令などがあります。加減速時間などを調整することで、1製品あたりの製造工程にかかる時間(タクトタイム)やワークの停止位置精度を最適化することが可能です。
入出力命令
入出力命令はサーバなどの外部機器とロボットがデータ通信を行うための命令です。入出力命令を駆使することで、ネットワーク接続やBluetoothなどのデータ通信を行うことが可能になるので、工場機器をネットワークで繋ぐ「スマートファクトリー」の施策を推進している工場では特に活躍する命令です。
繰り返し処理命令
繰り返し命令は任意の動作などを一定時間もしくは一定回数繰り返させるための命令です。
分岐・ジャンプ命令
分岐・ジャンプ命令は特定の条件に応じて次の動作を変えるための命令です。たとえば検品作業時に優良品か不良品かによって作業内容を変えたい場合などに活用します。
演算命令
コンピュータプログラミングと同様に、ロボットプログラミングにおいても、四則演算や三角関数などの演算命令が活用されています。このほかに、ロボット特有の演算命令として、ワークの位置データを演算する命令なども用意されています。
その他
ロボットメーカーによっては、塗装やハンドリングなどの専門作業にも対応できるオプション命令を用意している場合もあります。
ロボットアームの制御について
ロボットアームを制御する構造はアームによって異なるので、導入したロボットの種類ごとに把握する必要があります。また、ロボットアームは産業用ロボットのパーツの中でも劣化や消耗が激しいので、こまめなメンテナンスが必要です。日常的に異音がないか確認したり、定期点検や予防交換などが必要となったりするでしょう。