目次
工場の自動化に大きく寄与している産業用ロボットですが、使い方次第では重大な事故に繫がるリスクと隣り合わせです。そのため産業用ロボットを使うあらゆる製造現場には、ロボットの保守運用はもちろんのこと、定期的なメンテナンスや特別教育といった安全への責任と配慮が求められます。
本記事では製造業で産業用ロボットを導入する際に気を付けたい事故の種類や発生防止策、具体的な発生事例について解説します。
・産業用ロボットを扱う製造現場で気を付けたい事故は「はさまれ・巻き込まれ事故」と「転倒事故」の2つ
・産業ロボットを安全に取り扱うために特別教育の受講が義務付けられている
・事故を防ぐために、稼働中のロボットに近づかない・マニュアル厳守といった現場対策も必要
産業用ロボットでの事故件数が増加している
経済産業省が2019年に発表した「ロボットを取り巻く環境変化等について」という資料によると、世界の産業用ロボット販売台数は自動車産業を中心として2013年から2017年の5年間で2倍に増加しており、今後も年平均14%ずつ増加していくことが予測されています。
それと同時に、製造業における事故件数も増加傾向にあるようです。たとえば厚生労働省が発表した「平成29年における労働災害発生状況」によると、製造業における労働災害による死傷者数は年々増加傾向にあります。
製造業における労働災害の全てが産業用ロボットに起因するわけではありませんが、ファクトリーオートメーション(工場の自動化)が加速するに伴い、産業用ロボットを含む機械関連の事故には今まで以上に気をつける必要があります。
製造業で特に気をつけたい事故とは
平成29年に厚生労働省が発表した「労働災害統計」によると、製造業で発生件数の多い事故は、次の2つです。
- 機械による「はさまれ・巻き込まれ」事故
- 転倒事故
機械による「はさまれ・巻き込まれ」事故
ロボットや周辺装置の間に挟まれたり、ローラーに巻き込まれたりすると甚大な被害をもたらすことになるため、十分に注意しましょう。特に、出力の高い(80W以上)の産業用ロボットを導入している現場は機械によるはさまれ・巻き込まれ事故に気をつける必要があります。
従来80W以上のロボットを使用する製造現場では作業員の作業員の間に安全柵を設置することが義務付けられていました。2013年の法改正以降は80W以上のロボットでも一定の条件を満たせば安全柵なしで導入できるようになりましたが、はさまれ・巻き込まれ事故には引き続き注意する必要があります。
はさまれ・巻き込まれ事故を未然に防止するための対策の一つとして考えられるのは、協働ロボットの導入です。
協働ロボットは人と協働することを前提に作られており、万が一接触しても人感センサーで動作を停止するといった安全機能が搭載されています。
転倒事故
作業時に転倒によって稼働中のロボットと接触する恐れがあるため、転倒事故にも注意する必要があります。特に、食品加工工場などでは油類を扱う場合もあり、床が滑りやすくなっているので、十分注意しましょう。
転倒事故を防ぐための対策として考えられるのは工場内の動線をシンプルに保つことです。限られたスペースの中で人とロボットが協働作業をしている場合には特に、作業員が出来るだけ動き回らなくても済むよう、動線を工夫してみてください。また作業現場の整理整頓や清掃を怠らないようにし、日頃から転倒防止に努めましょう。
産業用ロボットによる事故の事例
産業用ロボットによる実際の事故事例を2つ紹介します。
溶接用ロボットの教示作業中に発生した「はさまれ・巻き込まれ」事故
自動車部品の製造工程ラインにおいて電動式スポット溶接用ロボットを設置。その後複数人で溶接位置等の調整作業を行っていたところ、連携ミスにより作業員の一人がロボットと周辺機器の間に挟まれて、全治2週間の裂傷を負いました。
事例の引用元:https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen_pg/sai_det.aspx?joho_no=635
プレス工場で発生した転倒事故
プレス工場において作業員がメンテナンスのためにロボットのモーターを取り外す作業をしていたところ、アームが誤作動しアーム先端を支えていたジャッキ台車とともに後方に転倒。床に後頭部を強打しました。
事例の引用元:https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen_pg/SAI_DET.aspx?joho_no=101405
産業用ロボットに関わる人が知っておきたい事故に関わる法知識
ここでは、産業用ロボットに関わる人がロボットを適切に運用するために知っておきたい法知識を紹介します。
特別教育の実施
安全衛生法第59条により、産業用ロボットに関わる人は原則として「特別教育」の受講が義務付けられています。労働者に特別教育を実施するのは事業者(経営者)の義務となっており、もしこれを怠ると、労働者だけではなく事業者も罰せられることになります。
特別教育で実施すべき内容については、厚生労働省「安全衛生特別教育規程」第59条3項で定められており、次の2科目から構成されます。
- 教示(ロボットに対し、位置や速さ、動作の順番などを教える業務)
- 検査(ロボットの点検・調整・修理など、メンテナンスを行う業務)
法的責任の所在
産業用ロボットによる事故は未然に防ぎたいものですが、ここでは万が一事故が起きてしまった場合に問題となる責任の所在について解説します。下記の表にあるように、産業用ロボットによる事故が労働災害と認定され裁判などに発展した場合、争点となるのは国際標準化機構が定める安全規格(ISO10218-1およびISO10218−2)などを遵守していたか否かです。
対象者 | 内容 |
全ての関係者 | リスクアセスメントの実施 |
メーカー(主としてISO10218−1) | フェイルセフ設計、安全対策部品の適正装備、正しく使えるような明快な表記等 |
システムインテグレータとエンドユーザ(主としてISO10218−2) | 安全策設置、各種安全装置の設計や安全措置、使用者に対する安全教育、管理監督の実施等 |
産業用ロボットの事故対策
産業用ロボットの事故を防ぐためにすべき3つの対策について解説します。
- 稼働中のロボットに近づかせない
- マニュアルを厳守させる
- 特別教育を受ける
稼働中のロボットに近づかせない
稼働中のロボットに作業員が接近することははさまれ・巻き込まれ事故の原因になりうるため、非常に危険です。メンテナンスなどでロボットに近づく必要がある場合には、電源を切った上で行うことが大原則です。
マニュアルを厳守させる
作業員全員が導入するロボットのマニュアルを熟読し、マニュアルを遵守した作業を実施することで、大きな事故を未然に防ぐことにつながります。
上述の通り、ロボットに接近する場合には、原則として電源を切ります。 しかしティーチングなどで止むを得ず電源を入れたままにする場合には、メンテナンスモードなどで動きを調整したり、ロボットをいつでも停止できる状態にしておくことが重要です。
またロボット作業時は1人で行なうのではなく、作業をする人と指揮監督をする人に分担するなどして、複数人でモニタリングしながら実施しましょう。
特別教育を受ける
産業用ロボットの危険性と事故防止策を作業員に理解・徹底させるためには、上述の「特別教育」の受講が必要不可欠です。
法律で義務付けられている特別教育を関係者全員が受講することは大前提ですが、社内組織としても安全作業手順を定期的に確認・徹底することが重要です。
まとめ
本記事では産業用ロボットを導入する際に気を付けたい事故の種類や具体的な発生事例、発生防止策や関連法知識について一通り解説しました。産業用ロボットを導入している工場では、
- はさまれ・巻き込まれ事故
- 転倒事故
これら2種類の事故が特に多発しています。
産業用ロボットを安全かつ有効に活用するために、法律で義務付けられている特別教育の受講はもちろんのこと、作業動線の見直しや工場内の清掃など、日頃から事故防止に努めましょう。